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2018年11月定例会本会議

まちづくり

自転車と歴史、文化、風土

○議長(鈴木清 君)次に、百瀬智之議員。

      〔5番百瀬智之君登壇〕

◆5番(百瀬智之 君)1970年の道路交通法の改正により認められた自転車の歩道通行ですが、これは、当時の道路環境を前提としたやむを得ない措置であったにもかかわらず、いつしか既成事実化され、歩道通行が原則であるかのごとき風潮ができ上がりました。

 平成18年に至り、ようやく本格的に自転車の走行秩序を取り戻すための取り組みが始められたものの、道路の構造や幅員構成の面で対処がはかどらず、また、歩道通行になれてしまった国民の意識も強固なものがあり、今はその延長にあると言えます。

 その間に何が起こったかというと、明確な検証のないまま、見かけ上危険そうに見えるという主観的な要素に依拠して、とにかく車から分離すれば事故は減るであろうという推量のもとで歩道通行を踏襲した結果、自転車事故の高水準での推移や自転車利用者の劣悪なマナーとルールの醸成をもたらし、7年前のデータではありますが、国際道路統計機関の調査によると、日本の自転車乗車中の死者数は30カ国の調査対象国で群を抜いての1位となっています。

 自転車の事故の特徴は交差点事故が極めて多いことで、これをどう分析するかですが、一つには自転車利用者のルールとマナーの低下が大きくかかわっている点は否めません。すなわち、車道を通行すれば、自転車利用者は最弱者としてみずからルールとマナーを守らなければみずからの身の安全性に大きな危険が生ずるという緊張感が生まれる一方、主として自転車利用者が最強者になる歩道通行では、ルールを守らなくても自身は何も困らないという意識が芽生え、その油断や怠慢のままに交差点に進入したときに、その存在に気づかない車と衝突して事故として発露するというわけです。

 ゆえに、事故対策としては、単純明快ながら、自転車の車道走行が一般的になるかどうかが一番重要であり、そのことを啓発活動と道路設計の両面からしっかりと手当てしていただきたいと思います。

 そこで、まず啓発活動から、本県では、直近20年間の自転車事故発生件数の推移はどうなっているのか。また、本県における交差点事故の状況について、自転車事故はそれ以外の事故と比べてどれくらいの高水準にあるのかをお尋ねします。

 法令を遵守して車道走行していた場合に後方から車にひっかけられる事故というのは割合としては実は相当低いということですし、また、ある識者によれば、歩道は意外と自転車と車の事故が多いこと、逆に、車道は左側通行していれば事故が極めて少ないことがデータで示されているらしいですから、いずれにしても、これらの客観的なデータに基づいた啓発活動を要望するとともに、ここでは車道走行の徹底に向けどのような啓発活動を行っているか、さらには、講習会などでの実技において実際の車道走行を実感してもらうことが重要だと思いますが、どのような取り組みがなされているのか。以上の点につき、警察本部長に答弁を求めます。

 さらに、道路設計のあり方は啓発以上に自転車事故の抑制に直結する問題です。一般に、日本では道路が狭いので車道に自転車空間をつくるのが困難とする意見や、仮に空間があっても、その空間は部分的であり、ネットワークとして確保することは難しいという意見、さらには、幅の広い歩道空間があるのにわざわざ車道に走行空間をつくる必要はないという意見などさまざまな抵抗感があることも確かですが、客観的なデータや科学的根拠に基づけば、それらは必ずしも正しくはないようです。また、車道走行が原則であるとは言いながら、大多数が歩道上の整備になってしまった原因はそれらによるものではなく、実のところ、沿道や関係機関との調整が大半の原因であるとも聞きます。

 そこで、お尋ねします。

 道路交通センサスの対象となるような幹線道路は県内に何キロメートルあり、そのうち両側1.5メートル以上の余裕幅があるのは何キロメートルでしょうか。その中で、自転車専用空間は何キロメートル整備され、それは幹線道路の何%に当たるか、データを御提示いただきます。

 その上で、国土交通省道路局と警察庁交通局は、平成24年11月、安全で快適な自転車利用環境創出ガイドラインを策定、公表しました。ここでは、原則的に歩道を自転車走行空間の整備対象と考えないこと、余裕空間や地元調整の容易さを中心とした路線から、計画論として必要な路線を選択するネットワークによる空間形式の取り扱いに移行したことなどが重要な点ですが、このガイドラインに基づき、新たに創出された自転車走行空間は現時点で県内に何キロメートルあるのでしょうか。

 また、ガイドラインでは、車と自転車の混在空間の安全性向上のため矢羽根型の路面標示が推奨されており、他県では大きな効果が認められています。これについての県内整備状況はどうか。

 以上を建設部長にお尋ねします。

 さて、今回この自転車を議題にしたのは、条例制定の動きと、もう一つ、偶然にも1カ月前、自転車レーンの塗りかえ作業をしたことがきっかけです。これは、私が所属するまちづくり団体が地域住民や松本市の理解、協力をいただきながら松本城前の大名町通りの色あせた自転車レーンを塗装し直そうという試みで、当日は家族連れなど市内外の約60人が参加しました。爽やかな秋晴れのもと、また、かすかにギンナンの香り漂う中、参加者が和気あいあいとペンキのついたローラーを使って公道を補修する光景には住民自治の原点を見た気がいたしました。

 一方で、それからというもの、私自身も自転車道路に注目するようになり、幾つかの素朴な疑問を抱き始めました。例えば、市の方針に沿って私たちが作業で使ったのは弁柄色という赤みを帯びた茶色で、道路上には大きく漢字で自転車専用の白い表記もあります。この漢字表記は外国人観光客の目にはどう映るのかということもありますが、それはそれとして、片や周辺市町村でよく見かけるレーンの色はブルーカラーであり、路面標示もロゴが用いられていたり、文字であってもその態様はさまざまであります。

 また、市町村の取り組みとして見てみると、例えば松本市では、1999年に始めた無料レンタルサイクルを将来的には廃止する方針であり、来春には主に市民向けの有料シェアサイクルを導入する予定です。より市民向けの施策をということでこのような運びになったと承知しておりますが、この廃止予定となる無料レンタルサイクル事業も殊に観光客には好評で、利用者は前年の2倍に伸び、利用者の9割が市外となっています。

 県としては、このような需要を引き続き掘り起こしながら、例えば市内で借りた自転車を近隣市町村で返せるような仕組みを整備するなど、より広域的な好循環につなげていくことも一案ではと考えます。

 そこで、サイクルツーリズムが推進される今般、市町村の境をまたいだ広域的な地域づくりにはどのような課題があるのでしょうか。とりわけ、自転車専用道路の色の統一化、道路標識や看板の統一化、レンタルサイクルの広域化についてどのような認識を持っているか、県民文化部長に伺います。

 今し方、サイクルツーリズムと申し上げましたが、今や長野県を代表するサイクリングイベントとなったのがアルプスあづみのセンチュリーライドです。松本市から白馬地域までを自転車で駆けめぐるこのイベントは、年々参加者がふえ、10回目を迎えたことしは、4月、5月の2回の催しで、延べ参加者数が4,000名に迫ることとなりました。注目すべきは、参加者の約9割が県外者であることで、当然、宿泊や飲食にも顕著な経済効果があらわれているわけであります。

 先日、この実行委員会の方々とお話しする中で、サイクリストはまだまだこのようなコースを求めている。それは、必ずしも中信平だけではなくて、北信、東信、南信にもそれぞれのサイクルコースとしてのよさと可能性が眠っているし、場合によっては長野県全体を自転車の輪のように一つにつなげばサイクリストにとって垂涎の的となるという言葉が大変印象的でした。 山道や峠道をものともせず、1日の周遊行動が数十キロにも及ぶハイユーザーやミドルユーザーにとっては、例えば、直感ではありますが、日本を代表するハイブランドな土地柄である軽井沢と、今欧米人に爆発的に人気が出ている馬籠、妻籠を結ぶ中山道などは大変魅力あるコースになるのではないでしょうか。

 道中では、時に佐久地域に多く残る宿場町での歴史の営みを感じてみたり、時には諏訪湖畔で温泉につかってみたり、時には塩尻で地元産ワインや格式高い日本酒を味わってみたりと、サイクリストに豊富な体験を提供できるはずです。

 ちなみに、千国街道や善光寺街道などとうまく結びつけることによって、サイクリストの聖地が、今、瀬戸内しまなみ海道であるならば、こちらはまさに「信州やまなみ街道」として、それと双璧をなすポテンシャルを有していると感じます。旧街道を活用したサイクリングコースの有用性について観光部長に見解を求めます。

 最後に、知事にお尋ねします。

 知事は、先月の台湾訪問で、ジャイアントグループの最高顧問と自転車を通じた観光振興について意見交換をされました。改めて本県の自転車活用についてどのような可能性を感じておられるでしょうか。

 また、2014年、愛媛県の招きでしまなみ海道のサイクリングイベントに参加したジャイアントの創業者が、このコースをブログで絶賛、しまなみ海道は一気に認知度が上がり、この愛媛県を追って今各県がしのぎを削っているところであります。他県に負けないという意味でも、また、本日、各部署、各方面にお尋ねいたしましたが、より効率的かつ集中的に自転車政策を推進するためにも自転車担当課の設置が必要と考えますが、いかがでしょうか。この提案についての知事の見解を求め、一切の質問といたします。ありがとうございました。

      〔警察本部長内藤浩文君登壇〕

◎警察本部長(内藤浩文 君)初めに、自転車が関係する交通事故の状況等についての質問にお答えいたします。

 昨年、平成29年の本県における自転車が関係する交通事故の発生件数は928件であり、20年前の平成10年の1,457件と比較しますと529件、36.3%減少、10年前の平成20年の1,515件と比較しますと587件、38.7%減少しております。平成10年からの10年間は1,400件台から1,600件台で推移しておりましたが、平成20年からは減少傾向にございます。

 全交通事故に占める自転車が関係する交通事故の割合を見ますと、平成10年は10.9%、平成20年は12.7%、平成29年は11.7%であり、ここ20年間は10%台前半で横ばい傾向が続いております。

 次に、自転車事故のうち交差点で発生した交通事故の発生状況等についての質問にお答えいたします。

 平成29年中の自転車が関係する交通事故928件のうち、交差点において発生した交通事故は661件で、その割合は71.2%になっております。また、自転車が関係する交通事故を除いた事故の発生件数は7,024件であり、このうち交差点において発生した交通事故は2,766件で、その割合は39.4%になっております。

 自転車が関係する交通事故が交差点で発生する割合と自転車が関係する交通事故を除いた事故が交差点で発生する割合を比較しますと、自転車が関係する交通事故によるものの割合は自転車が関係する交通事故を除いた事故によるものの割合の1.8倍となっております。

 続きまして、自転車の車道走行の徹底に係る啓発活動等についての質問にお答えいたします。

 車両の通行区分は、道路交通法で、「車両は、歩道又は路側帯と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。」と規定されております。自転車は道路交通法上車両と定義されておりますことから、自転車の運転者が児童、幼児や70歳以上の高齢者であるときなどを除き、原則として車道を通行すべきとされております。

 県警察では、関係機関・団体と連携して、全ての年齢層の自転車利用者に対し、自転車安全利用五則を活用するなどして、自転車は車両であり、車道通行が原則であることなどの自転車の通行ルールの周知を図るとともに、自転車利用者の多い路線等における街頭指導、啓発活動を実施しております。

 また、教育委員会等と連携して、児童生徒等に対し、実際の道路を自転車で通行する実践型の自転車安全教室や、スケアード・ストレート技法による体験型の自転車安全教室を継続的に実施しているところであります。

 さらに、本年は、3月から5月にかけて、自転車が関係する交通事故の発生状況や特徴等の分析結果を公表するなどして児童生徒等の自転車事故防止対策を強化したほか、季別の交通安全運動におきましても街頭指導、啓発活動を強化しているところであります。

 以上でございます。

      〔建設部長長谷川朋弘君登壇〕

◎建設部長(長谷川朋弘 君)自転車通行空間の整備割合についてのお尋ねでございます。

 直近の平成27年度に全国的に実施された道路交通センサスにおける一般交通量調査の県内対象路線の総区間延長は約5,900キロメートルとなっております。このうち、両側1.5メートル以上の路肩があるものは、自動車専用道路約330キロメートルを除き、約240キロメートルとなっています。このうち、自転車の専用空間として路肩部に歩道との分離がなされた自転車専用通行帯を整備した総延長は約5キロであり、5,900キロメートルの0.1%に当たります。

 次に、ガイドラインに基づく自転車通行空間の整備状況についてのお尋ねでございます。

 ガイドラインが示された平成24年以降、県内で整備された自転車通行空間は、市町村道を含め約11キロメートルです。このうち、矢羽根型の路面標示がなされた区間については、今年度県において整備した一般県道有明大町線の松川村ちひろ美術館付近を含め、約5キロメートルとなっています。

 県としては、今後、市町村の自転車活用推進計画の中で位置づけられる自転車ネットワーク計画をもとに国や市町村と連携し、自転車通行空間の確保に努めてまいります。

 以上でございます。

      〔県民文化部長角田道夫君登壇〕

◎県民文化部長(角田道夫 君)広域的な地域づくりの課題についての御質問でございます。

 まず、自転車に関係する路面標示や標識の位置については、適切な案内や安全性の確保の観点から連続的で統一的な整備が望ましいと考えておりますが、県内では必ずしも統一的でない現状がございます。

 また、レンタルサイクルの広域化も、市町村域を超える相互乗り捨てサービスの提供が一部エリアにとどまっている状況でございます。

 自転車の利用に関する条例(仮称)の制定検討を契機として県内の自転車利用を促進するためには、路面標示や標識の位置について、関係する市町村等とも十分協議の上、利用者にとってわかりやすいものとなるよう取り組んでまいりたいと考えております。

 また、自転車の利用促進の重要な柱でありますサイクルツーリズムの推進による観光振興についても、条例に基づき策定する自転車活用推進計画に具体的な施策を位置づけ、国や市町村、関係事業者等との調整の上、着実に進めてまいりたいというふうに考えております。

      〔観光部長熊谷晃君登壇〕

◎観光部長(熊谷晃 君)旧街道を活用したサイクリングコースの設定についてのお尋ねでございます。

 妻籠宿や奈良井宿など旧街道に沿って宿場町をめぐる旅は、国内外から多くの観光客を集めており、歴史や文化の薫りが感じられる旧街道は魅力あるサイクリングコースに十分なり得るものと考えております。

 なお、宿場と宿場をつなぐ街道の移動に当たりましては、道路幅の狭い箇所や自動車の交通量が多い箇所があることなどから、特に安全の確保を図ることが重要であります。また、移動距離が長い場合は、サイクルトレインやサイクルバスの運行なども考えていく必要があります。

 加えて、宿場内や町なかをめぐる際には、歩行者及び居住者の安全や町の風情に配慮するとともに、サイクルラックやサイクルサポートステーションの充実など、サイクリストが滞在しやすい環境を整えることも必要であり、諸外国の先進的な取り組みも学びながらサイクリストを初めとする観光客の誘客を進めてまいりたいと考えております。

      〔知事阿部守一君登壇〕

◎知事(阿部守一 君)自転車政策に関連して2点御質問をいただきました。

 まず、観光振興における自転車活用の可能性についてという御質問であります。

 御質問にもありましたが、今、日本の中では、しまなみ海道や琵琶湖がサイクリングのメッカとして認知度が高まってきております。長野県も、アルプスの雄大な景観や美しい河川や湖を眺めながらサイクリングができる場所がたくさんありますし、また、マウンテンバイクのフィールドとしてスキー場を活用してきたということも、これは山岳県ならではの取り組みとして多くの可能性があるというふうに思っております。

 既に御質問にもありましたあづみのセンチュリーライドを初めとして数多くの自転車イベントが開催されております。我々は、こうしたものの統一的な発信が十分できていないところがありますけれども、サイクリストの間では注目度が高まっているという現状にあります。

 台湾を訪問して、ジャイアントグループの最高顧問、羅祥安氏と懇談をさせていただきましたが、羅祥安氏からも、長野県はサイクリングの適地であるという高い御評価をいただくと同時に、幾つかの重要な御示唆もいただいてまいりました。

 特に、観光ということを考えたときには、まずインバウンドのお客様を考えたときに、海外から自転車を運んできた際の国内での輸送、これは非常に重要なポイントだというふうに御指摘いただきましたし、また、観光という観点からは、誰でもいつ来ても楽しめるような環境をつくっていく。一部のサイクリストだけではなくて、お年寄りや子供、そうした方々も含めていつでも楽しめるような環境をつくっていくということが重要ではないかと。

 例えば、カナダのウィスラーでは、マウンテンバイクコースが当初は非常に高度なコースだったわけですけれども、今は初心者向けのコースまで整備されているということで、やはり観光を考えたときには、より裾野の広い人たちがサイクリングを楽しんでいただけるような環境をつくっていくということが大変重要だというような御指摘もいただいております。

 自転車利用に関する条例の制定を契機といたしまして、このサイクルツーリズムをぜひ本県の観光振興の大きな柱に据えていきたいというふうに思っております。サイクリングロードの整備やさまざまなサービスの充実、そして情報発信、こうしたことを総合的に行うことによって観光振興につなげていきたいと考えております。

 もう1点、自転車施策を効率的に推進する担当課の設置についてという御質問でございます。

 自転車の利用に関する条例案(仮称)におきましては、自転車活用推進計画を定めて進めていこうということにしております。その推進体制として、自転車活用推進本部を設置して、市町村や自転車利用に関係の深い団体の皆様方とともにこの施策を積極的に進めていくこととしているわけであります。

 全体の方向づけはこの本部を中心に行ってまいりますが、具体的な施策にかかわる部局は、今、幾つかの部長が御答弁させていただきましたけれども、非常に多岐にわたっております。総合的に進めていくための実務を担う庁内体制については、今後しっかり検討していきたいというふうに思っております。

 私としては、できればこうしたサイクリングを楽しんで進めることができるような職員を配置して、仕事ということだけではなくて、やはり自分の思いを込めて進めていくことができるような体制をつくっていくことができればというふうに思っております。

 以上でございます。