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2016年11月定例会本会議

まちづくり

ネーミングライツを考える

○議長(向山公人 君)次に、百瀬智之議員。

      〔5番百瀬智之君登壇〕

◆5番(百瀬智之 君)信濃美術館の改修が議題に上がる今般、関連して文化政策一般について質問します。

 まずは実務的なところから、国指定の文化財保護事業の県かさ上げ補助についてお尋ねします。

 県文化財保護事業補助要綱では、国の補助額を控除した50%が県の負担基準とされています。ところが、この要綱に基づいて平成25年に制定された補助金交付要領では、補助率がかなり抑えられ、近年の平均補助率は5%にとどまり、思いのほか市町村と所有者の負担が大きくなっています。

 また、このかさ上げは、国の補助率が最大の85%の場合に県補助はその残額の2分の1に当たる7.5%と設定される一方、国の補助率が下限の50%の場合には、県補助が1%にとどまることになり、やや不公平感が強いのではないでしょうか。

 さらに、県指定の文化財保護事業についても伺います。

 こちらは、確かに近年は40%前後と一定水準の補助金が支給されているように見えます。しかし、実際には1年度当たりの事業費を低く抑えるため、単年度で実施可能な事業を複数年度に分けて実施するよう指導があり、工事の間接経費がかさんでいます。こちらも十分な予算額が確保されていないことから、新規事業の先送りが行われ、適切な時期に保存修理を行うことができていないわけですが、このような現場の実態をどのようにお考えか、教育長にお尋ねいたします。

 さて、政府が平成23年2月、第3次文化芸術の振興に関する基本的な方針を策定した後、東日本大震災の発生や政権交代、2020年東京オリンピックの開催決定など、我が国を取り巻く諸情勢の大きな変化がありました。これを受けて、昨年5月、第4次基本方針が閣議決定され、2020年度までの6年間を対象期間として、日本が目指す文化芸術立国の姿が初めて明示されています。

 かかる状況で、文化振興元年として新たな一歩を踏み出した長野県の取り組みには大いに賛同しています。地方自治体の文化予算がピーク時の3分の1程度に落ち込む中で、財源をしっかり確保して文化振興を図る取り組みは大事だと思います。

 1点気になるのは、長野県がよって立つ文化芸術振興指針がやや古びてしまったのではないかということです。平成21年に策定されて以降、そのようなさまざまな環境の変化があり、文化芸術振興の条例を制定する都道府県が27を数えるに至った現在、長野県も昨年来よりの取り組みの趣旨をいち早く新しい羅針盤に落とし込む必要があるのではないでしょうか。ここがしっかりしていなければ、いずれはまた文化事業が細分化され、矮小化されてしまうのではと懸念しますが、いかがか。現在の指針の後継について、お考えを知事に伺います。

 また、地方自治体の文化予算は、国と異なり、文化財関連は少なく、文化施設の建設維持管理が大きなウエートを占めます。文化活動のインフラが一定水準に達した現在、これらをどのように活用して住民サービスや地域の活性化につなげていくのかが、喫緊の課題といえます。

 殊に、信濃美術館の改修といっても、あるいはこの先あるかもしれない県立図書館や歴史館のそれといっても、またネットワークを強化するといっても、とりわけ中南信に暮らす我々にとってはどことなく遠いことのように感じられ、現地機関の機能強化が議題となる昨今ですから、文化政策についても、ぜひ地域ごとの既存の県有施設の機能強化を強力に推進していただくことを望みます。

 その上で、私が今回問題提起したいことは、県有文化施設におけるネーミングライツの導入が果たして適切なことなのかということです。

 例えば、姉妹提携をしているウィーン楽友協会の建物や、小澤征爾氏が音楽監督を務めたウィーン国立歌劇場のウィーンという名前に凝縮された音楽性のポテンシャルはもとより、当地では、州立の名のつく歌劇場なども、その歴史性などと相まって大きな存在感を放っています。仮にこれらが企業名を冠していた場合に、その文化施設のブランド力とでもいうべき魅力が、この世界の裏側にまで今と同じくすっと入ってくるかといえば、そうではありません。

 ネーミングライツのメリットに関しては、やはり財政面での色合いが強く、一方、デメリットに関しては、施設が誰の所有物かわかりづらいなどもろもろあるものの、私が考えるに、核心的な問題点は、地域の文化拠点が本来持つべき伝統や格式、あるいはそれに対する地域住民の誇りや、将来の県ブランドとしての可能性など、文化施設の目に見えない価値を施設の名前とともに県みずからが手放してしまっている点にあると考えます。

 ここでは、実務的な財政的な観点ではなくて、県としての地域アイデンティティーの確立をかけた政治的判断が求められているのではないかと考えます。文化県としての飛躍を期する長野県ですから、文化施設一つ一つにおいても、長野県、信州、県立という名前に自信と誇りとこだわりを持つべきと考えますがいかがか、知事の見解を求めます。

 最後に、文化政策の可能性について伺います。

 例えば、フランス、ロワール川流域の都市ナントの文化政策は、文化事業を中心に置いた都市計画による都市再生を公約に掲げて1989年に当選した市長のもとで、20年にわたり継続して進められ、今日では世界屈指の現代アートの町として名が知られるようになりました。

 近年は、日本でも、文化芸術、町並み、地域の歴史などを地域資源として戦略的に活用し、地域の特色に応じたすぐれた取り組みを展開することで、交流人口の増加や移住につなげるなど、文化芸術を町づくりの起爆剤とする動きがふえました。快適なリバーフロント、モダンなレストランやバー、歴史を感じるカフェ、そして豊かな芸術文化など、これらが総合的に提供する文化的な環境が人を引きつけるという認識は、国際的にも高まっているわけです。

 また、国際的に成長産業となった観光産業についても同様で、長野県の歴史の中で育まれた生活文化を含む伝統文化、そして各地に残る文化財は国際的な競争力を秘めているものと確信します。

 財政が逼迫する折、これまでは真っ先にカットされるのが文化予算でしたが、今は文化政策が国交省の町づくり事業や観光庁の観光振興策にも色濃く反映されるようになりました。高らかに掲げた文化振興元年の真髄は、このように狭義の文化芸術の枠を超えたところにあると勝手ながら解釈いたしますが、この点いかにお考えか、知事にお尋ねいたしまして、私の今回の一切の質問を終わります。ありがとうございました。

      〔教育長原山隆一君登壇〕

◎教育長(原山隆一 君)国指定、あるいは県指定の文化財保護事業の補助金についての御質問でございますが、まず、国指定の文化財に関する補助金は、平成15年から21年まで凍結をしてきたということがあります。22年に建造物の修理に限り補助を再開し、25年からは制度を改正して、対象をほぼ全ての文化財保護事業に拡大したという経緯があります。

 所有者の財政力に応じて補助率を新たに定めましたけれども、この平成25年度以降は、この制度のもとにおける必要な予算額については確保いたして、全ての対象事業について制度どおりに補助を行ってきておりますが、ただし、県の市長会等からは、補助率の引き上げ等、制度の見直しを求める声もありますので、今後、市町村教育委員会とともによりよい補助制度のあり方について考えてまいりたいと思っております。

 また、県指定の文化財に係る補助金につきましては、平成25年に制度を改正し、補助率の上限も従来の2分の1から3分の2に引き上げるなど拡充をしたところであります。そして、国と県の指定と文化財補助事業に係る平成28年度の当初予算額を見ますと8,224万円となっておりまして、制度改正前の平成24年度の予算額4,000万円の倍以上という状況ではあります。

 一方で、県指定の文化財に係る補助要望は、予算額を上回る要望が寄せられておりまして、このため、事業の必要性や緊急性を精査して、優先度の高いものから順次補助を実施しているという状況でもあります。

 今後も、県民の貴重な財産である文化財が将来にわたって保護、保存、継承されるよう、必要な予算額の確保に努めてまいりたいというふうに考えております。

      〔知事阿部守一君登壇〕

◎知事(阿部守一 君)私には、文化政策について3点御質問いただきました。

 文化芸術振興指針を踏まえた新しい条例、計画の策定についてという御質問をまずいただきました。

 私も、基本的に御質問の趣旨はそのとおりだというふうに思っております。文化芸術振興指針については、位置づけ、内容等も含めて今後しっかり検討して方向づけしなければいけないというふうに思っております。

 文化芸術振興指針は、平成21年度、私が知事に就任する前に策定されたものでありますが、その後、県民文化部を設置し、文化振興基金を設置し、芸術監督団を文化振興事業団に置いてもらうなど、この文化芸術の分野については、私としてはかなり積極的に取り組みを進めてきたところであります。

 今後、信濃美術館の改築等も迎える中で、もう一回県政の中で、この文化芸術のあり方というものについてしっかりと位置づけ直していくということが極めて重要だというふうに思っております。

 折しも、次の総合5カ年計画の策定にちょうど着手をする段階でもございますので、こうした総合計画の策定も視野に入れながら、文化芸術の振興にどう取り組むかということについては、改めてしっかりと考え、位置づけを行っていきたいというふうに考えております。

 それから、文化施設におけるネーミングライツについてでございます。

 ネーミングライツは、平成21年から導入しているわけでありますが、私どもとしても、全ての施設がどんな名前になってもいいというふうに必ずしも考えているわけではありません。例えば、信濃美術館、東山魁夷館等については、伝統的あるいは歴史的な名称であること等から、新たな名前を冠することはなじまない施設というふうに考えて、当初から対象外という形にさせていただいております。

 また、導入に際しましては、選定委員会を設置して学識経験者等で御検討いただいているわけでありますが、その際、いわゆる命名権料だけではなくて、名称についても、親しみやすさ、あるいは呼びやすさ、あるいは施設のイメージに合っているか、こうしたことについても審査をしていただいた上で決定をさせていただいているところでございます。

 百瀬議員御指摘の観点は、私も重要だというふうに思います。導入に当たりましては、御指摘いただいたような点も含めて、慎重に検討の上対応していきたいと考えております。

 それから3点目、文化による町づくりの可能性についてどう考えるかということでありますが、これも私は、従来の異文化のための文化政策ではないという議員の御指摘と基本的に同じ考え方でございます。

 長野県は地域固有の伝統芸能あるいは文化財が多数存在しているわけでありますが、こうしたものを文化財として捉えるということだけではなくて、地域の誇り、地域の活性化の核としていくことが極めて重要だというふうに思いますし、また、全国一の数を誇っている美術館、博物館、こうしたものも、文化芸術の観点だけではなくて、御指摘があったような観光振興の観点でどう生かしていくかということがこれからは問われているというふうに考えております。

 先日、文化振興事業団の近藤理事長、芸術監督団の皆様方ともお話しした上で、芸術監督団のミッション、それから取り組みの方向というものを確定させていただいたわけですが、その中でも、文化芸術の創造性を生かした地域づくりということを取り組み方向に明確に位置づけさせていただいています。

 文化資源を生かした地域の活性化、あるいは芸術家、アーティスト等のクリエーティブ人材が活躍できるような社会づくり、こうしたいわゆる狭義の、狭い意味での文化芸術の枠を超えた取り組みを文化振興事業団、芸術監督団の皆様方とも一緒に行っていきたいというふうに考えております。

 また、今、観光分野では、少し予定からおくれておりますが、観光戦略づくりを行っているわけでありますけれども、この中でも、やはり長野県が誇るべき観光資源の一つは、日本らしさ、日本のふるさと、日本の原風景、こうしたものが重要でありますし、また、海外からお越しいただくお客様には、日本本来の文化、あるいはサイトウ・キネンのような世界に誇れる芸術、こうしたものをいかに組み入れ発信していくかということが観光戦略の中でも重要だというふうに考えております。今後、こうしたものを信州観光の重要なコンテンツとして位置づけ、取り組んでいきたいというふうに考えております。

 県民文化部を創設いたしました思いも、私は、県民文化部は、企画振興部あるいは総務部と同じように、私の頭の中では横串を刺す部だというふうに考えております。そういう意味で、文化というものをいろいろな政策の基盤に置きながらこれからも県政を進めていきたいというふうに考えております。

 以上です。