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2016年6月定例会本会議

もりづくり

木材自給圏の構築

○議長(向山公人 君)次に、百瀬智之議員。

      〔5番百瀬智之君登壇〕

◆5番(百瀬智之 君)森林組合や川上の森林政策をお尋ねした前回に続き、今回は、木材自給圏の構築に向けて、川下の需要、県産材の利用促進について、計4点伺います。

 まず、住宅政策についてお尋ねします。

 一般に、リフォームのきっかけは、内外装の木質化よりもキッチンや浴槽など水回りを新調したいという動機が圧倒的に多数です。そこで、県の信州型住宅リフォーム助成金を利用する際、以下のような実態を少なからず側聞します。

 例えば、一つに、外壁、屋根、床など、または開口部の断熱性を高める工事という助成要件に対しては、トイレのわずか30センチ四方の窓枠を新しいサッシに取りかえ、二つに、県産木材の内外装仕上げ材を10平米以上使用する工事という要件に対しては、薄っぺらい木材を用いて一部屋分の腰壁をつくり、三つに、バリアフリー改修工事という要件に対しては、近所のホームセンターで売っている肩幅ほどの手すりを備えつけ、それらを安価で済ませて、浮かせた補助金で水回りをより手厚く改修するというぐあいです。

 そもそも、この制度が有用なものなのかという話はまた別の機会に譲るとして、少なくともこの場面における県産材普及の効果は、省エネ化推進、移住促進など他の目的と混然一体となって、結果的に極めて低いものになっていると言わざるを得ません。

 片や、建築における木材利用が多方面にわたって重要なウエートを占めていることは厳然たる事実であります。したがって、新築案件も含め、これらの枠組みとは別に、補助金助成よりも、根羽村の根羽スギの柱50本提供事業のようなものを参考にしながら、現物支給による助成制度の導入を検討すべきではないでしょうか。

 県民にとって、単にお金の足しになるということよりも、県の独自性を出しながら、制度趣旨の明確化、補助金の高付加価値化、地元山林への効果的な利益還元を狙った政策を打ち出すべきであります。新制度の設立について、林務部長に見解を求めます。

 次に、バイオマス事業について伺います。

 林務部が進める森のエネルギー総合推進事業において、まき、チップ、ペレットなどをつくり出す供給施設整備に関して、今年度は約8,200万円の予算が計上され、それらを消費する利用施設整備、すなわち木質バイオマスボイラー及びストーブの導入予算の4倍近くとなっています。

 懸念するのは、それら補助対象となった供給施設が商業的に成り立つかどうかということで、例えばドイツにおいてペレット工場を併設している製材工場は、通常、年間丸太消費量が20万立方メートル以上の工場であり、これらの大規模工場で発生する大量のおが粉をそのままペレット加工する副産物利用であれば採算が合えど、丸太からそのままペレットをつくるような場合には、現在のエネルギー価格ではコスト的に合わないと言われています。

 供給施設を補助金で整備したものの、販路が確保できないために利用施設を補助金で整備し、それでも採算がとれないのでランニングコストも税金で面倒を見ようかという事態は避けなければなりません。

 補助金の受給要件として、一定の場合には一定の経営判断をするとのことですが、森林資源が豊富になってきている今、先行き不透明な供給サイドよりは、需要サイドの環境を一定期間で集中的に整備し、あとは市場メカニズムに任せるというスタンスが重要と考えます。

 需要サイドでは、個人向けのペレットストーブ購入に関して先進国並みの補助率とするか、あるいは我々の足元を見ると、11月定例会で取り上げました野菜、果樹などの園芸ハウスに加えて、温泉やホテル、旅館などの施設で相当の化石燃料を使っており、これらを重点的にまきやチップのバイオマスボイラーに置きかえていくだけでもかなりの需要開拓が見込まれます。また、森林資源の近くに立地して条件的に有利な箇所も多いでしょうから、こちらのほうが短期的には優先度が高い事項かもしれません。

 以上の観点から、供給施設よりは、むしろ利用施設整備に係る木質バイオマスボイラーやストーブなどの導入に予算の重点を振り分けるべきではないか。林務部長にお伺いします。

 関連して、3点目に移ります。

 建築利用に関しても、バイオマス利用にしても、これまでばらばらに動いていたものを戦略的かつ具体的に工程表に落とし込み、地域における需要と供給を着実につなげていくことが肝要であり、その意味では、今年度より始まった信州の木自給圏構築事業には期待を寄せています。この事業により、来年度にかけて県下5流域でそれぞれ地域の実情に合わせた取り組みが始まります。

 一方で、流域ごとに林業の実力差というものがあるでしょうし、一つの流域内でも地域ごとにさまざまな温度差があるかもしれません。

 とりわけ、県産材利用は、路網整備や木材生産が活発化して初めてそのシステム的な利用が可能になります。とすれば、施業集約、路網整備で先行する地域において集中的な投資を行い、その事情に合わせた県産材利用の模範的な事例をつくり、まずは実績をつくって、それを他流域、あるいは他地域に横展開していくという政策方針が有効ではないでしょうか。この事業の実施に当たり、先行モデル事業、パイロット事業の導入を求めます。木材自給圏の構築をいかに進めていくか、林務部長に同じく見解を求めます。

 さて、さきの全国植樹祭の1週間前、「消える熱帯林 日本へ輸出」という大きな見出しが、5月29日付の朝日新聞2面に載りました。記事によれば、ボルネオ島北部のマレーシア・サラワク州で、手つかずの熱帯林が急速に失われており、サラワク州から輸出される合板の59%が日本向け、日本が輸入する合板の46%がサラワク州産ということです。

 現地の汚職や腐敗も絡んで、州政権幹部や親族が伐採権を企業に乱発し、現地で発行された合法証明があれば日本でも合法とみなされる昨今、手つかずの熱帯林を乱伐し、先住民を迫害し、森林資源や生態系を破壊する状況は数十年来にわたって改善されていません。

 イギリスの王立国際問題研究所は、2013年、日本が輸入する木材製品の約12%が違法伐採された木材が使われているのではと試算しています。基本的に、日本の違法流通規制は緩いので、現場で国産材、県産材をうまく使っていく仕組みをつくることの重要度は相対的に高くなります。

 信州で県産材を循環する仕組みをつくっていくことの意義は、県内だけにはとどまらず、国際的な環境負荷を軽減し得る面もありますから、そのような文脈からも、木材自給圏の構築に向けて果敢に施策展開していただくことを望みます。

 時に、植樹祭の折には、知事から県産材の利用推進に関して、建築利用とバイオマス利用の2点を重要な柱とすることに言及していただきました。それらを具体的にどのような方向性で進めていくおつもりか、木材自給圏の構築に向けての総括的立場から、より踏み込んだ説明を知事に最後に求め、私の一切の質問を終わります。ありがとうございました。

      〔林務部長池田秀幸君登壇〕

◎林務部長(池田秀幸 君)県産材の利用推進に関する御質問に対し、順次お答えを申し上げます。

 初めに、住宅の助成制度の創設についてのお尋ねでございます。

 県が行います現行の住宅助成制度は、平成14年度の制度開始以来、これまでに約3,000戸の住宅建設を支援しており、住宅での県産材利用に大きな効果が得られていると考えております。

 一方、現物支給による支援につきましては、県内では根羽村におきまして、一定条件を満たした木造住宅の建築に対し柱50本を現物支給しており、また、他県におきましては、秋田県で最初に実施されておりましたが、現在は熊本県が柱材等の現物支給による支援を実施している状況でございます。柱等の現物支給制度は、県産材が目に見える形で施主に届き、施主等へのアピールが強く、住宅における県産材使用率を高める上でも一つの有効な方法と思っております。

 一方、制度運営コストや納入業者間の調整などの課題があると予想されますことから、他県での事業効果や課題等を情報収集いたしまして研究してまいりたいと考えております。

 次に、森のエネルギー総合推進事業についてのお尋ねでございます。

 森のエネルギー総合推進事業では、地域からの要望によりまして、ペレットストーブや木質バイオマスボイラー等の利用施設の導入に支援するとともに、これらに対して安定的に燃料が供給されるよう木質バイオマス供給施設の整備にも支援をしております。

 この事業によりまして、これまでに、県内でペレットストーブ2,061台、バイオマスボイラー40基が導入され、これに伴い、木質バイオマス向けの木材の生産量も年々増加をしているところでございます。

 議員御指摘のとおり、木質バイオマスの推進において、利用施設の導入促進による需要の喚起が重要と考えておりますが、現在の本県におけるバイオマス供給施設の生産体制はいまだ脆弱な状況にございます。このため、需要と供給のバランスをとることが必要であり、供給体制が整うまでの間は支援を継続することで本県の木質バイオマス利用を推進してまいりたいと考えております。

 次に、木材自給圏の構築についてのお尋ねでございます。

 県内の林業、木材産業におきましては、信州F・POWERプロジェクトの大型製材工場の稼働でありますとか木質バイオマス発電所の建設など、木材の重要構造が大きく変化をし、地域の県産材の生産、流通、加工体制も転換期を迎えております。

 こうした中、地域における木材自給圏の構築に向けましては、本年度、信州の木自給圏構築事業によりまして県内を5流域に分け、林業、木材産業、住宅産業などの川上から川下までの関係者の意見を集約いたしまして、現状や課題の把握、課題解決のための方向性などを検討してまいります。

 自給圏構築事業において抽出されました具体的な課題や、既に地域において芽が出始めている取り組みをもとにモデル地域を設定いたしまして、木材の地消地産の体制づくりや地域の特徴を生かした木材自給圏の構築に向け、具体的な事業化を進めてまいりたいと考えております。

 以上でございます。

      〔知事阿部守一君登壇〕

◎知事(阿部守一 君)県産材の利用推進についての御質問にお答えします。

 森林県から林業県へと転換していく上では、県内の森林資源をできるだけ無駄なく活用していくということが重要だと思っております。

 建築利用に関しましては、先般国土交通大臣の認定を受けました信州型接着重ね梁、あるいは既に都市部で実績が出ております耐火集成材等につきまして、公共建築物等での活用、あるいは首都圏、中京圏等での展示会、商談会の開催、さらには建築士、工務店の皆様方への働きかけ、こうしたことを通じて、県内はもとより全国への普及を積極的に進めていきたいと考えております。

 また、バイオマスでの利用につきましては、F・POWERプロジェクトなど発電施設の整備を促進することに加えまして、塩尻市あるいは伊那市等で取り組みが始まりつつあります農業用のバイオマスボイラーの普及モデルづくり、あるいは市町村と連携した小規模な地域熱供給システムの検討等、地域の特色を生かしたエネルギー効率の高い利用を進めていきたいと考えております。

 百瀬議員の御質問の中で、重要な視点をいただけたというふうに思っております。

 一つは、需要側に働きかけることによって、市場原理がしっかり機能するようにしていくという観点が大変重要だと思いますし、また、もう1点は、実はこれは職員研修の中で、テラ・ルネッサンスというNPOを始めた鬼丸さんという方を講師にお招きしましたが、ブラッドダイヤモンドというお話をいただきました。これは、ダイヤモンドの資源を争ってアフリカの中で地域間紛争が起きて、そこで少年兵が働かされると。その少年兵の社会復帰を支援するNPOであるわけですけれども、これは、めぐりめぐれば、ダイヤモンドというものに価値を見出している先進国の皆様方の選択が引き起こしているんじゃないかという問題提起がございました。

 私どもは、グローバル社会の中で、他の国々としっかりと協力、友好関係を深めていくということはもとより重要でありますが、他方で、必要以上のものを他の地域から収奪していないかという視点は常に考えていくことが必要だというふうに思っております。そういう観点も含めて、この木材についても、地消地産という考え方をしっかりと進めていきたいと考えております。

 以上でございます。