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2016年2月定例会本会議

もりづくり

補助金に頼らない林業へ

○副議長(小島康晴 君)次に、百瀬智之議員。

      〔5番百瀬智之君登壇〕

◆5番(百瀬智之 君)昨年10月、県庁と県議会の御理解、御協力のもと、オーストリア森林・林業技術交流調査に同行させていただきました。その調査報告を交えながら、一般質問2回にわたって林業政策を議題とし、前半の今回は、森林組合の再生について、計4点お伺いいたします。

 現地では、移動日を除いて丸々5日間、林業生産現場や森林研修所、行政施設、バイオマス発電所などを見させていただきました。行く先々で目からうろこという思いであり、計画終了となる平成30年度までの間に今後も凝縮した技術交流がなされることを望みます。

 数年前、ドイツの森林管理の専門家が森林税を投入したある県の列状間伐の現場を訪問し、これは鉱山発掘、すなわち収奪林業だと驚きの言葉を発したことがあったようです。我々日本人がよかれと思って進める森林づくりが、時に思わぬ方向に向かっていることもあるかもしれません。

 そこで、新年度から予定されているオーストリアからの講師招聘による県内での現地指導の事業にも期待を寄せますが、現時点での内容はいかがでしょうか。今後の交流事業の展望とともに、その詳細について、まず林務部長にお尋ねいたします。

 さて、本題に入ります。

 林業を成立させるためにまず必要となるのが、森林所有者をサポートするシステムの構築です。森林所有者の多くは高齢化していたり、世代交代して林業と別の仕事についています。所有林から遠く離れて住んでいる人も多く、林業から離れてしまっている場合が大半という中、森林所有者が林業経営の直接の担い手になれなくなってきているのは先進国共通の現象であり、日本だけ特殊なわけではありません。

 それでも、他の先進国では、森林所有者をサポートするシステムを構築し、森林は適切に管理され、安定された木材生産が行われています。

 オーストリアにおいては、小規模所有から大規模所有までさまざまな所有形態が混在しています。我々がふと話をした農家林家は、農地30ヘクタール、森林50ヘクタールを所有して経営し、純利益は農業ゼロに対して林業100とのことでしたが、所有林の近くに住んで専業で林業経営を行っていたり、このように、林業経営の傍ら、農業やペンションなどの複合経営を行ったりする農家林家が多いことが小規模所有者の特徴です。

 森林所有者個々の自助努力では解決が困難な部分を側面的にサポートする仕組みが機能しているため、生産現場で伐採搬出作業や機械購入に対する補助制度がない中でも、経営意欲を高く保ち、林業経営にかかわる仕事を基本的に自分自身で行えるようになっていました。そこではフォレスターと呼ばれる森林管理の専門家が森づくりに関することから、具体的な施業や木材生産、販売に関するサポートなど、多岐にわたるサービスを提供しています。路網を設計し、施工管理するのも、そのために所有者を説得するのもフォレスターの役割です。

 また、もう一つ、我々が行ったシュタイヤマルク州で所有者をサポートするための仕組みとして重要な役割を担っていたのが森林連盟です。森林や農地の所有者がお互いのビジネスをサポートするためにさまざまな活動を展開する中、森林林業に特化した専門組織たる森林連盟は、それまでは木材の共同販売を主要な業務としていましたが、90年代の半ばあたりからは木質エネルギーにかかわる事業を牽引し、我々は森林連盟が運営する木質バイオマス市場を見させていただきました。

 このように、オーストリアにおいては、林業の主役、担い手は森林所有者であり、それぞれの機能に応じて所有者をサポートするのがフォレスターであったり、森林連盟であったりするわけです。調べてみるに、隣のドイツでも同様の仕組みがあり、日本と所有形態の共通性が高い林業先進国フィンランドでは、林家のサラリーマン化に伴って森林所有者協会の機能を強化することで林業を維持、発展させたようであります。

 日本においてこれらに相当する組織は、森林組合のほかないわけでありますが、驚くことに、所有者にかわる経営の担い手としての機能を果たしている森林組合は例外的な存在です。多くの森林組合がやってきたことは、公共事業など基本的に画一的な作業で、余り技術力がなくても何とか対応できる保育事業が中心でした。平成10年を過ぎたあたりから公共事業は減少し続け、森林組合の中には本来の業務である民有林事業の開拓へと乗り出すムードが高まっていましたが、平成18年の初めに吸収源対策によって700億円の補正予算がつくことが決まり、現場のムードは一気に弛緩して、公共事業にどっぷりつかるもとの体質に戻ってしまいました。

 多くの県で導入が進んだ森林税、環境税なども基本的にこれと同じ問題を抱え、そろばん勘定は弾めど、多額の費用をかけて効率の悪い間伐を行い、地元民有林は今なお置き去りにされたままというのがまず全国的な傾向です。

 昨年、一気に表面化した大北森林組合の問題は、まさにそのような日本の林業行政をなぞるかのような状況の中で起こりました。組合の経営状況について、特に組合が受注していた事業や補助金との関係では、県の検証委員会の最終報告書でこう記されています。

 組合では、従来、森林整備が活発ではない地域の中で、国や公社などから発注される植林や切り捨て間伐などの技術力を比較的要求されない作業を多く請け負っていた。森林資源が成熟する一方で、植林や切り捨て間伐などの事業量は少なくなっていた。平成17年度に豪雪などを背景として約1,200万円の赤字により約1,000万円の欠損金を生じたため、欠損金の3年以内の解消を目的とした大北森林組合改革プランを策定し、団地化による間伐施業の推進と搬出間伐への取り組み、提案型の事業展開等に取り組むこととし、搬出間伐などへの対応のために作業道開設などの基盤整備や高性能林業機械の導入などを推進していった。平成19年度以降、造林関係補助金の増加と連動するような形で事業取り扱い高を増大させ、平成22年度には事業取り扱い量が約7.3億円と平成17年度の約2.8倍に達したというぐあいです。

 平成19年度の組合の補助金不適正受給額だけでも平成17年度に生じた欠損金を一挙に解消し得る額であり、これでは、せっかくの自前の改革プランが水泡に帰すどころか、全国には自己改革によって視察が相次ぐまでになった森林組合があることに鑑みれば、補助金がさまざまな可能性を喪失させてしまったとも言えます。

 私にとって、本事件は、補助金が適正に執行されなかった事件というよりは、林業行政における補助金そのものの存在意義が問われる事件という角度から議論されるべき事柄であり、よって、執行部の責任等を殊さらに追及する声には違和感を覚え、むしろ、林業立県への第一歩として、大北に限らず県内一様に組合に対する政策や予算のあり方を再考する機会にしなくてはならないと考えています。

 そこで、以下、森林組合一般に対する政策について具体的にお尋ねいたします。

 森林組合法第1条「この法律は、森林所有者の協同組織の発達を促進することにより、森林所有者の経済的社会的地位の向上並びに森林の保続培養及び森林生産力の増進を図り、もって国民経済の発展に資することを目的とする」とあるように、繰り返しになりますが、森林組合の第一義的な役割は森林所有者へのサポートであります。現状が追いつかない中、営業努力や効率的な機械利用、路網開設など技術力が要求される個人所有林への開拓に一層乗り出せる環境を整えていかねばなりません。

 そこで、改めて組合の業務を森林所有者に対するコンサルティングに特化させる仕組みづくりを検討するべきではないか。林務部長にお尋ねいたします。

 また、持続的に林業を成り立たせるためには、できるだけ効率のよい間伐を行い、長期的に高い水準で搬出材積量を維持することが肝要です。いまだ国庫補助から多額の造林事業費が出ている中で、困難な面もあるでしょうが、林業施策の展開に当たっては、個別施業への補助金を廃止し、施業集約と路網整備を前提としたものに徹底的に組みかえることを求めますが、いかがか。林務部長に見解を求めます。

 総じて、長野県林業も将来的には先進国のように高い生産性と収益性を確保し、補助に頼らない林業へと転換していくべきと考えますが、この基本的な方向性について知事の見解を求めます。

 最後に、我が県の森林税についてですが、これまでの取り組みで、集落周辺に散在し、森林経営計画の樹立が難しいような手入れのおくれた里山について、一定の間伐を進められたと思います。しかし、超過課税でもあり、今からしっかりとした出口戦略を検討し、同時に、単純に切り捨て間伐を実施するばかりではなく、地域の中で間伐材を利用していくような取り組みの検討が必要です。今後の森林税の取り組みの中では、継続的、自立的な里山づくりにつながるように、将来的には森林税に頼らなくても地域で間伐材や里山資源の利活用が進むような取り組みをぜひ検討していただくよう要望いたしまして、私の一切の質問を終わりにいたします。ありがとうございました。

      〔林務部長塩原豊君登壇〕

◎林務部長(塩原豊 君)森林組合の再生について御質問いただきました。

 初めに、長野・オーストリア林業技術交流事業についてのお尋ねですが、事業の今後の展望として、オーストリアの先進的な取り組みを参考に、特に木材の搬出や利用を軸とした資源循環型林業の構築に向け、林業の生産性の向上や木材を無駄なく利用するためのノウハウについて学ぶ取り組みを強化してまいりたいと考えております。

 オーストリアの講師による県内での現地指導の内容としては、木材生産の安全性、効率性を高めるための作業システムの改善や、木質バイオマス熱供給システムの具体的な導入に向けた推進手法等について、個別の現場でのアドバイスや関係者の集合研修を行うことを想定しております。具体的な指導者や箇所、時期などは、現場の要望を踏まえつつ、産学官関係者で構成する長野県海外林業技術等導入促進協議会やオーストリア関係機関と調整を図る中で決定していく予定でございます。

 次に、森林組合の業務のあり方についてのお尋ねですが、森林組合は、森林所有者である組合員のために直接奉仕することを事業目的としており、組合員に対する森林経営の指導、森林整備の計画づくり等のコンサルティング業務は、協同組織たる組合の重要な業務であると認識しております。このため、現在改正を行っております県の森林組合指導方針において、森林経営計画の作成や施業の集約化が組合の重点的な業務であることを位置づけるよう検討を進めているところでございます。

 森林経営計画の作成や施業の集約化の推進に当たりましては、組合員の所有する森林だけでなく、その周囲の組合員以外が所有する森林も含め、面的なまとまりを持った森林を取りまとめることが重要でありますことから、その作業の中核を担う森林施業プランナーの育成を県森林組合連合会と連携して引き続き進めてまいります。

 次に、林業の施策展開のあり方についてのお尋ねですが、森林法の改正により、平成24年度から施業地の集約化や効率的な路網整備を図るため、面的なまとまりのある森林を対象に施業を計画する森林経営計画制度が導入され、県では森林整備地域活動支援事業により計画の作成を支援しております。

 現在の森林整備事業では、この森林経営計画を作成した上で、木材生産の低コスト化を図りつつ、計画的に実施する施業に対して重点的に支援することとしておりまして、平成26年度の森林整備事業においては、森林経営計画に基づく施業面積が県全体の約7割を占め、面的にまとまりのある森林を対象に路網の整備等を進めた結果、間伐材の生産量は増加するなど、計画作成の効果があらわれてきているものと考えております。

 今後とも、森林組合等の林業事業体に対し、施業地の集約化や効率的な路網整備を図るための森林経営計画の作成を支援することによって、効率的な木材生産に資する取り組みを促進してまいります。

 以上でございます。

      〔知事阿部守一君登壇〕

◎知事(阿部守一 君)森林・林業政策に関しまして、本質的な御提言をいただきまして大変ありがとうございます。昨年、私も百瀬議員とともにオーストリアを訪問させていただく中で、長野県の有する豊かな森林資源、さらに有効に活用すれば林業はもっともっと力強い産業になり得るということを確信をいたしました。

 常々森林県から林業県への転換ということを申し上げてきておりますが、御指摘のように、どちらかというと補助事業に頼っての森林整備中心の森林林業経営でありますけれども、これからは、やはり経営という視点をしっかり持った林業というものを軸にこの森林・林業政策を考えていく必要があるというふうに思っております。

 今回、来年度予算の中で、信州の木自給圏構築事業というものを入れさせていただいております。補助に頼らない林業に転換していくためには、どちらかというと、行政の施策は、林務部が供給側を支援するという取り組みでやっておりますけれども、供給側の視点だけではなくて、需要者側、そちらのニーズも十分反映した上で、県産材の需要拡大の取り組みを進めていくということが大変重要だと思っております。

 こういう観点で、需要から供給まで幅広い関係者の皆様方の参画を得る中で、長野県のそれぞれの地域の特徴、あるいは県産材の強みを生かした地消地産体制等の検討を進めていきたいというふうに思っております。オーストリア等に比較しますとまだまだわずかな一歩ではありますけれども、しっかりと自立した林業の構築に向けて取り組みを進めてまいりたいと考えております。

 以上です。