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2015年11月定例会本会議

もりづくり

農林業は成長産業か

○議長(西沢正隆 君)次に、百瀬智之議員。

      〔5番百瀬智之君登壇〕

◆5番(百瀬智之 君)長野県農業の主要部門である園芸農業について、まずは先端技術の導入状況からお尋ねします。

 温度管理等の栽培工程をIT管理して生産体制を安定化し、高付加価値の作物をつくる施設園芸農業が近年広がってきました。農業法人や大規模農家がビニールハウスならぬガラスハウスで園芸作物を大々的につくる例もあれば、遊休施設を活用して1人で園芸栽培を始める例もあるようです。

 技術開発については、信州農業を革新する技術開発推進事業が今年度から始まっています。民間企業や大学などが持つアイデアと技術シーズを活用しての異業種連携、それに伴う農業経営の効率化が期待され、もとより農業に転用できる技術を日本の企業はたくさん持っています。

 ガラスハウスを見れば、通信メーカーとの連携によるコンピューターを駆使した環境制御や品質管理、養液メーカーとの連携による農家への先端技術指導、家電メーカーとの連携によるエアコンや光源などの技術革新など、連携に期待できる点は多々あります。

 これらを踏まえ、技術開発、特に県内の温室栽培への技術導入とハイテク化にいかなる取り組みを進めているか。まずは農政部長に見解を求めます。

 さて、小さな国土面積で大きな農業成績を上げ、園芸作物において一日の長がある国といえばオランダです。日本のほうがおよそ農地面積は24倍、農業就業人口は20倍、農業経営体数は30倍以上上回っているにもかかわらず、1人当たりの農地面積を比べるとオランダは日本の約8倍、農業就業人口1人当たりの生産額は日本の約14倍、そして、農産物の輸出額はアメリカに次いで世界第2位を保持し、特に野菜や果物、花卉類の輸出は世界一となっています。

 この背景にあるのが、フードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点たるワーヘニンゲン大学リサーチセンターです。

 1997年に、顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく、産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりで、フードバレーには食品関連企業約1,400社、科学関連企業約70社、そして約20の食品関連の研究機関が集結、約1万人の研究者によって多様な研究・事業化プロジェクトが行われているとのことであります。多くの雇用が生まれていることは言うまでもありません。同国が抱える課題や、環境、規模、条件の違いを考慮に入れても、なお本県の参考になる点は多いと考えます。

 以上を前提に質問いたします。

 長野県内においては、農業、果樹、林業などの各試験研究機関、新技術の普及や産地づくりを支援する高度技術支援機関、その他農業大学校や専門教育機関が広い県土に分散しています。情報連携や相互協力の緊密化には一層努めてもらいたいところですが、将来的には、農業に関連する総合的な研究専門機関として、また農業や食品関連企業が集まり得る場として、メッセージ性の強い拠点形成に向けて関連施設を計画的に集約化していくべきと考えます。

 ときに、現地機関の再編に関して先月開催された長野県行政機構審議会では、このことについて、北欧諸国では、近年、農業部門の競争力強化の観点から、大型の植物工場や栽培型漁業などIT技術を駆使した先端的な取り組みが官民を挙げて行われている、農業が基幹産業の一つである長野県においても、試験場がこうした役割をリードできるよう思い切った体制の強化を検討すべきであるとする意見を初め、組織体制の見直しや強化を求める意見がよく出たとお聞きしています。

 他県にも先進事例があり、また、知事の公約でも試験研究機関の機能強化が掲げられているのは皆様御承知のとおりであります。

 そこで、かかる組織再編と拠点形成を実現した場合に、県内農業にどのようなメリットや波及効果があると分析しているか。農政部長に見解を求めます。

 次に、知事にお聞きします。

 オランダの施設園芸農業は、以下のとおり明瞭かつ大胆であります。施設野菜はトマト、パプリカ、キュウリ、イチゴで栽培面積のほぼ4分の3を占める。これらの4品目に集中的に投資。特に主要農作物であるトマトの自給率は310%に及び、国内消費を大幅に上回る生産量。大規模な土地利用が必要な小麦などをほとんど生産せず、かわりに施設や設備を充実させて輸出に適した品目を徹底してつくるという戦略。また、ネットを活用してトマトやパプリカの色、大きさ、甘さなど世界各地の需要を徹底的にリサーチする。そして、一番高く売れるタイミングを予想し、それに合わせた生産体制をしく。収穫や栽培にもロボットを大幅に導入し、流通や施設園芸のエネルギーについても研究開発を怠らない。カラフルでかわいらしいパッケージで消費者を引きつけ、代替エネルギーや使用エネルギーの再利用も農業に導入し、施設園芸の的であるエネルギーコストも大幅に下げているというぐあいです。

 オランダが国土の面積などのハンデを克服し、世界一強い農業を実現しているのは、これら選択と集中に特化しているからと言って過言ではありません。科学的なマーケットリサーチに裏づけされた品種生産と、さきに質問いたしました技術革新と研究開発は重点的に投資をしたからこそ大きく実を結んだことであります。本県においても特に力を入れていただきたいことであります。

 そこで、ここからが一番今回申し上げたいところでありますが、確かにTPP対策も大事でありますし、農地の中間管理機構の話も大事、また、よく議題となりますけれども、農ある暮らしなど地域振興策的な観点からの議論も確かに大事でありますが、しかし、20年後、30年後を見据えて、長野県の農業、これを成長産業化させて若い人たちが入ってくる、こういった方針をとることは大いにやっていかなければならないし、一丁目一番地であるというふうに思っております。

 特に、若い人たちは、新しい世界に向かっていく産業、また成長する産業に魅力を感じるところであります。そういった観点からしますと、先ほど丸山議員の御指摘にもありましたとおり、知事も答えていただきました、稼げる農業を目指すんだ、こう指摘していただいたことは大変よかったというふうに思いますが、しかし、一方で、農業大学校の活用、あるいはシナノスイートに始まる高付加価値の生産、これをどういうふうに位置づけているかということはもう少し立ち入った説明が必要ではないかというふうに思っております。

 私の中ではまだこれは点でしかないというふうに思っておりますし、周辺の施策なのか、それを突破口に、何か幹、向かっていくものがあるのか、これをどう考えているかということでありますが、たまたま、今回、私はオランダを引き合いに出させていただきましたけれども、やはり長野県農業の主要部門であります園芸農業について成長産業化に向けてめり張りのきいた施策を展開する必要があるし、予算づけにおいてもそのようにしていくべきではないかということで、改めて知事にその点をお伺いしたいというふうに思います。

 最後に、つい先日、中信地区のあるガラスハウスを御案内いただきました。温度、湿度、電照時間などがコンピューターでコントロールされ、この時期でも1日約4トンのトマトを収穫し、地元や東京、大阪などに出荷、経営の観点からは補助金なく黒字化し、地元で約130名の雇用をつくっておられました。

 このガラスハウスでは、現在、野菜栽培用エネルギーの供給を目的に、地域木質バイオマスを活用するコージェネレーション設備を導入したエネルギーセンターを建設中です。施設への温水供給を行うことで栽培におけるエネルギーコストの削減を図るとともに、燃焼過程で排出される二酸化炭素を施設内のトマトの光合成のために利用することが検討されています。

 また、木質バイオマスを活用することで、県内の森林資源の有効活用を通じた地域振興を図っています。林業と農業の相乗効果が県内に新たな可能性を生むことを願うものであります。

 そこで、さきのオーストリア、スイス訪問について、林業と文化、観光の諸成果を昨日御披露いただきましたが、この過程で農業と異業種との連携促進に関してお感じになられたことはあったでしょうか。この点についての考察を知事に開陳していただきまして、私の一切の質問を終わりにいたします。ありがとうございました。

      〔農政部長北原富裕君登壇〕

◎農政部長(北原富裕 君)私からは2点の御質問にお答えをいたします。

 初めに、技術開発の取り組みと導入状況についてでございますが、今年度から取り組んでおります信州農業を革新する技術開発において畦畔除草管理機の開発では、諏訪地域における精密工業系の企業や信州大学工学部など農業分野以外の企業、大学と連携し共同開発を進めており、今後、現地において実用性評価を行い、改良を加えていく予定としております。

 また、施設園芸におきましては、これまでに、県の野菜花き試験場が民間企業と共同でLEDの光を使った害虫防除技術を開発し、花や野菜のトマトなどで活用をされております。現在は、ハウス内の二酸化炭素濃度をコントロールすることによる増収技術や紫外線を利用した病害虫防除技術などの実用化に向け、民間企業との共同開発を進めているところです。

 今後も、農業分野以外の企業や研究機関が持つ技術シーズを取り入れ、共同で研究開発に取り組み、農業分野の技術開発が加速できるよう進めるとともに、それを生産現場に速やかに導入、普及を図ってまいりたいというふうに考えております。

 次に、農業試験研究機関等の集約化についてでございますが、本県の農業につきましては、県内各地で多様な農産物が露地生産を主体として生産されております。その中で、米麦、野菜、果樹、畜産、水産のそれぞれの主産地に六つの試験場が配置されているというのが現状でございます。

 これら試験場では分野ごとに新品種や新技術の開発に向けた研究開発を行っておりますが、作物ごとの試験場であることから試験場の機能や役割が農業者を初めとした関係者にとってわかりやすいものになっているという現状がございます。

 また、研究に当たりましては、他の試験場や大学、民間企業等他分野との共同研究などを通じまして進めるとともに、研究成果につきましては県下10カ所の普及センターを通じて農業者への速やかな普及を図っているところでございます。

 御質問の試験研究機関を集約化した場合の県内農業へのメリットや波及効果でございますが、異なる分野の研究員が相互に知見や情報を交換し合うことで従来の手法と異なる斬新な発想による研究開発が進み、新たな農業技術の開発につながる可能性が期待をされます。

 一方で、先ほど申しましたように、作物ごとに栽培環境の適地が異なることや、試験研究の今まで培ってきましたものの継続性への影響、さらには整備にかかる経費などの課題もあるものと認識をしております。

 以上でございます。

      〔知事阿部守一君登壇〕

◎知事(阿部守一 君)信州農業の成長産業化ということで非常に大きなテーマで御質問いただいたというふうに思っておりますし、このことについては、御指摘いただいたような点、しっかり受けとめなければいけないというふうに思っています。

 長野県の農産物、非常に品質がいい農産物をこれまでつくってきましたが、恐らくこれから世界的な競争の中で打ち勝っていく上ではこれまでの延長線上の取り組みでは十分ではない、そういうふうに感じています。御指摘ありましたように、戦略的に農産物を選択して生産していくという観点も重要だと思っております。

 第2期長野県食と農業農村振興計画、これに基づいてマーケットインの考え方を基本とした品目全体での振興策を展開してきておりますし、また、リンゴであればシナノゴールドやシナノスイート、水稲であれば「風さやか」、こうした品種を販売ターゲットを明確にした上で生産、販売するという取り組みも進めています。

 また、リンゴの新矮化栽培の導入等によります収量と品質の向上、あるいは稲作経営にICTの導入をすることによる生産コストの低減、こうしたことを取り組んできているわけであります。

 ただ、百瀬議員の御質問を伺っていて、私もこの答弁だけで十分かということを実はずっと考えておりまして、恐らく、この方向、必ずしも間違っているわけではないというふうに思いますが、しかしながら、次元が違う取り組み、言うならばこれまでフォアキャスティング的な、今までの取り組みを前提にどう発展させるかという観点で取り組んできましたが、これからは少しバックキャスティング的にかくあるべきと、長野県の農業をこうしなければいけないというところから逆に取り組むべき施策を構築していくということが重要ではないかというふうに考えております。

 今、私ども取り組んでいる中で、信州ワインバレー構想、これは、人材育成拠点あるいは試験研究、こうしたものとあわせて、農地の集約であるとか、さまざまワイン関係の皆様方から具体的な御提言をいただいています。これは、まさに点の政策から線あるいは面の政策にしていかなければいけないという観点が非常に強く出されております。

 そういう意味では、ワインだけではなくて、その他の農業分野においてもこういうような視点で、先ほど試験研究機関のお話もありましたけれども、トータルであるべき姿を構築して、それに向けて官民一体で取り組んでいく、そういう方向性をぜひしっかり出すように取り組んでいきたいというふうに思います。

 それから、もう1点御質問いただきました。

 オーストリア、スイスの訪問と農業と異業種との連携促進に関して何を思ったかということでございます。

 今回、オーストリア、スイス、いずれも、林業、それから文化、観光という観点での訪問でございましたけれども、農業についてもいささか考えるところがございました。特にオーストリアでは木質バイオマスの活用という観点を学んでまいりましたので、これから熱利用ということで農業との連携が十分可能ではないかというふうに感じています。

 今、長野県としても、園芸ハウスの暖房に木質バイオマスを活用するため、県内の工業・林業分野の民間企業とコンソーシアムを組んで、化石燃料と木質バイオマスのハイブリッドで、低価格、そして温度制御を可能とするボイラーの開発に着手をしております。ぜひこれは実用化していきたいと考えております。

 また、スイスにおきましては、この場でも御答弁申し上げましたが、地消地産、こうした観点が非常に強く徹底されているということを感じております。長野県の農産物、地元の旅館、ホテルを含めてしっかりと活用できるような方向性を、これは、農政部だけではなくて、関係部局挙げてしっかりと考えていきたいというふうに思っております。

 以上でございます。