GLOBE自然資本サミット@ベルリン
もりづくり
生態系の価値を経済的に捉える風土
(冒頭)
日本の衆議院議員、百瀬智之でございます。この場において発言の機会を頂けることを大変嬉しく思いますと共に、素晴らしい場所を提供して頂いたドイツ議会、この会合に向けご準備をされてきましたGLOBE自然資本イニシアティブのリーダー、バリー・ガーディナー議員、また事務局に対しまして敬意を表したいと思います。
私からは自然資本の価値を評価し、それを国家的な勘定枠組みに組み込むことにおいての、今までの日本の取組みをご紹介したいと思います。また、日本における経験から、自然資本の経済価値評価を進めるうえで留意すべき点がいくつかございますので、それをなるべく簡潔に述べたいと思います。
(環境と経済の統合勘定における日本の取組み)
日本では1991年から、環境と経済活動の相互関係を反映する勘定体系を確立するための研究が行われてきました。これは、内閣府の経済社会総合研究所においてされてきたものです。
1993年に国連がSEEA(シーア:環境経済統合勘定)を提唱してからも、その枠組みを取り入れながら、日本の実情に合わせた日本版の「環境・経済統合勘定」の構築を目指して参りました。
その後、環境負荷を貨幣換算していくプロセスにおいて問題を抱え、オランダのNAMEA(ナミア)、2003年版のSEEA(シーア)と同様に、経済活動に伴う環境負荷を物量的に並列表記する形に変更しました。これを「経済活動と環境負荷のハイブリッド型統合勘定」と呼んでいます。日本版NAMEAとも言えるでしょう。
日本版では、汚染物質や廃棄物におけるサービスの供給や消費を記載していることや、輸入による海外の資源の減少も考慮していることなど、ユニークな点がいくつかございます。この日本版の統合勘定については1990年、1995年、及び2000年について試算推計を行なっています。
また、より綿密なプロトタイプを作成するために、そして改善点の洗い出しのために、兵庫県をパイロットエリアとしてスタディを行いました。このように、日本においても、環境と経済の統合勘定システムについては、長らく研究が続けられて参りました。
ただ、国連や他の国でもいえるように、自然資本をいかに貨幣評価し、既存のGDPの代替指標をつくり上げるのかという点において、いまだに大きな課題を抱えていると申し上げておきます。
(日本における事例)
生態系の価値を経済的に捉える風土は、日本には古くからございました。記録では1784年に、上流にある村が山林の伐採をローカル政府に対して出願しましたが、下流の24の村が反対をしました。伐採によって雪解けが早くなり、農業用水が不足すること、また、雨の際に土砂流出などのおそれがあることが理由でした。結果的に、上流の村は伐採を中止し、下流の24の村は毎年、今の金額にして10万ドル〜20万ドルのお金と600kgのお米を上流の村に支払うことになりました。
下流域の生活の糧となる生態系が上流域の生態系に支えられており、その経済的な価値が下流域で生活する人々に認識されていたことを表す出来事です。
2011年の国際森林年に、国連からフォレストヒーローとして、日本の沿岸で漁業を営む漁師が選ばれたことも象徴的な出来事だったと言えるでしょう。彼は漁師でありながら山に木を植え続け、その重要性を世界に訴える漁師の一人でした。
私は農業の盛んな地域を代表する議員ですが、農地というのは生態系循環の一部として機能しています。収穫利益はもとより、物質循環機能、水・大気の浄化機能、生物多様性の保全機能など、農地それ自体にも大きな経済価値が潜在しています。また、もっと大きな連環でみると、健全な農地の運営は、下流域の水質改善、栄養分の供給など下流域への好影響を及ぼし、悪質な農地の運営は下流域において排水汚染や栄養過多などを引き起こします。
(自然資本イニシアティを推進するにあたっての留意事項)
TEEB(ティーブ)の報告書を見ると、沿岸、河川、珊瑚礁、熱帯雨林、草地、湿地など、それぞれの金銭的価値が分析されております。河川や草地が漁業に及ぼす影響など、異なるカテゴリーの生態系の相互作用にも触れられていますが、この点は注目すべきだと思っております。
なぜなら、広いエリアで、互いに連環した生態系には、数多くの省庁の管轄がまたがって存在するからです。国土交通省が河川を開発する場合に、農林水産省が管轄する下流の漁業を考慮しない場合もあるでしょう。
その意味において、省益を超えた判断をする政府機関や委員会が必要になってきます。また立法府として、政府を監視する際に、こういった横断的な視点を持つ必要があるでしょう。
今後、GLOBEの各国の議員の間で、どのように生態系の経済価値を国民経済計算に組み込んでいくのかという技術的な知見。さらに、どのようなポストやorganizationをつくっていくのかという組織的な知見を共有していくことは、自然資本会計を推進していくうえで、我々が持つユニークかつ重大な役割となるでしょう。
ありがとうございました。