2022年6月定例会文教委員会
ひとづくり高校再編はダイナミックに
○副議長(髙島陽子 君)休憩前に引き続き会議を開きます。
続いて順次発言を許します。
百瀬智之議員。
〔13番百瀬智之君登壇〕
◆13番(百瀬智之 君)今回は、高校再編に対する一般行政のスタンスについてお尋ねします。
先月発表された第三次の再編・整備計画案によると、中信地区でも複数の学校が再編の対象になるとのことでした。普通校、普通科もさることながら、特に専門校や専門学科の統合が目を引きます。
よく、生徒が行きたいと思える学校とか魅力ある学校づくりという言葉が出てきます。子供たちの立場に立ってその入り口は何なのかと考えたときに、少なくとも、中学校時の成績によって、普通校も専門校もひっくるめて数字が上の者から自動的に行ける学校に振り分けられるシステムでは、行きたい学校も魅力ある学校もあったものではありません。
今後、子供たちが主体的に教育と学校を選べる仕組みをつくるとともに、特に偏差値による序列で後塵を拝してきた学校を、本当に行きたい高校、魅力ある高校に変えていくならば、現行の教育委員会制度の中にあっても一般行政の積極的な関与が必要だと思います。というのは、例えば、今回再編の対象となった南安曇農業高校、穂高商業高校、池田工業高校の絡みでいうと、かつて農学校としての歴史を持つ3校は、時代の要請とともに姿形をそれぞれに変え、それが今般総合技術新校となることによって、3校はおろか、中信地区からもいよいよ農業という名前のついた高校が消えることとなります。
かねてよりの環境・健康志向の高まりに加え、今年は食料の安全保障や度重なる物価上昇で日々の食がひときわ話題になっています。こうした農業復権が待たれる時代に、足元では粛々と農業高校が整理されていくさまには、一般行政としてもっと強いメッセージが出されるべきではないでしょうか。
学科としては存続するという見方も、このような一斉型の整理事業を繰り返すうちに、また次の世代ではどうなることか分かりませんし、私が問題意識として持っているのは、どういう形にして学校を残していくかということよりも、地域としてどのような人材を育成していきたいのかメッセージが全く伝わってこないということであります。
これは、子供たちの側からすれば、どこに進学したら本物の体験が得られるのか見えてこないということでもあって、特に、専門校においては、優秀な教員、充実した教育施設・設備などの環境要因よりも、体験の数々、現場の第一線で働く方々と時間を共にできる臨場感であったり、自身の取組が地域社会の創造につながるのだという達成感であったりと、学びの実質的な中身に直結する事項が問われているのではないでしょうか。
椅子に座って教室で習う科目もおろそかにはできませんが、そうはいっても、分からないことはもうスマホ一つで幾らでも知り得る時代であります。それよりは、実習課題になるか、課外体験になるか、その辺は分かりませんが、農業で言えば、地元の農家さんととがった商品をプロデュースしてみたり、伝統野菜やこだわりの食材を扱う農園に通ってみたり、あるいはそれらを扱うレストランとコネクションを持ってみたり、そういう体験の数々が子供と地域の好循環を育むのだと思いますし、そこには人材の交流や資産、拠点、アイデアの提供などにおいて県政の果たせる役割はまだまだあるはずです。
そういえば、いつかの一般質問でイタリアの食科学大学を御紹介させていただいたことがありました。大学と高校の違いこそあれ、農業全般に始まって、作ったものをどう売るかという視点からはマーケティングや商業的知識を、さらには、地理学から食品工学に至るまで食にまつわる基礎知識は全部学校が用意するから、その代わり、しっかり地域を巻き込んで地域と世界の食をクリエートしていくべしという強烈なメッセージが訪れる人たちの目を引いてやまないわけであります。高校の規模が縮小されていく今だからこそ、長野県の熱意はどこにあるのか示されるべきであります。
それらに鑑みると、林業からも目を外せません。中信地区を起点に考えたとき、かつての木曽山林高校が統合されてしまったことは一大痛恨事でありました。これまた形として今なお受け継がれているとはいえ、幼少期は全国に誇るやまほいくを展開し、小中学校でも環境教育が進み、特に木曽から塩尻、松本にかけては、林業大学校や林業総合センターほか、民間でも活発な関係団体や事業体が集積し、係るフォレストバレーとともに林業県を目指す長野県が今の高校体制をよしとするのか。現行の再編計画案は重みを持つものではありますが、やはり将来的には全国に誇る林業高校の単独復活を目指すべきだと考えます。
本来は、それを攻めの姿勢として片手に持ちながら、現行案では志学館高校と田川高校の再編が俎上にのっていますが、もう片方の守りの姿勢として、2校だけでなく、木曽から塩尻、松本地域までをもっと広く俯瞰して普通校や総合校を配置していくべきだと思います。
高校再編が旧通学区に軸足を置いたところから話が始まっているので、それは自分たちが通える学校なのかという議論にはなっても、心から行きたい学校なのかという議論にはならず、全県、全国を見据えたスケール感が一つも出てこないのは非常に残念と言うほかありません。
そこで、以上、そのような含意から伺います。
まず、農政部、林務部が現在高校生に対してどのような政策を展開しているのか。また、農業高校、林業高校が縮小し続けた歴史と、それによる地域への影響をどのように見ているのか。農政部長と林務部長にお尋ねいたします。
そして、知事におかれましては、農林業に限らず、商業や工業等も含めて、そうした専門高校などの再編が同じく地域にどのような影響を与えてきたと見ているか。過去の高校再編を振り返ったときに、一般行政としてはどのようなことを課題に考えているのか。伺います。
その上で、特に専門高校や専門科は人材育成と産業振興に密接に関わっており、それらの在り方こそが高校改革の目玉になるべき部分だと考えます。この学校に入りたいという気持ちを湧き立たせるため、県政のダイナミックな関わりを求めたいと思いますが、いかがか。今後の高校再編にどのように臨むおつもりか、所見をお伺いします。
最後に、次期総合5か年計画では、高校教育も含めた地域の在り方や住民のライフデザインも存分に示していただきたいです。ですが、そうしたときに、新旧通学区と振興局の区割りで整合性が取れていないことは一つの課題ではないでしょうか。学校教育と地域社会、あるいは産業振興との接続は、こうした地図の上でも一貫性を持って描けるようにしていただき、とりわけ第一次からこれだけ大規模に再編するとなると、旧通学区や地域振興局の範囲をまたいだ再編が多く、申し上げてきたような拠点の在り方や地域の人の流れも再考していかねばならないと考えます。改めて10広域の再整理の必要性についてどのように考えるか。知事の見解を求めて、一切の質問といたします。
〔農政部長小林安男君登壇〕
◎農政部長(小林安男 君)高校生に対する施策と農業高校縮小による地域への影響についてでございますけれども、農政部では、将来の農業人材を確保するために、農業高校の校長や農業法人協会、農業経営者協会の会長に参加いただき、継続的に意見交換を行いながら施策の充実と高校との連携強化を図っております。その中で出された意見も踏まえ、高校生に農業の魅力を伝えるため、若手農業者が農業高校へ出向き、自身の経営や将来の夢などを語る農業の魅力発見セミナーや、農業高校生が先進農家で体験実習を行うなど、農業高校と連携した取組を実施しているところです。
また、農業高校の再編統合は、社会情勢や産業構造の変化に対応し実施され、現在は、関連学科も含め、11校と承知しております。昔とは異なり、卒業と同時に就農する生徒は少数ですが、例えば県農業大学校の学生の約4割が県内農業高校出身者であることからも、地域農業を支える上で農業高校は一定の役割を果たしていると認識しております。
なお、高校生など若い世代が農業に触れて職業として農業を意識することや、農業の技術の習得のみならず、マーケティングやDXなどこれからの農業経営に必要なスキルを学ぶことは大変重要であると考えております。
以上でございます。
〔林務部長吉沢正君登壇〕
◎林務部長(吉沢正 君)私からは高校生に対する林業施策といわゆる林業高校縮小の影響についてお答えします。
就職を意識する年代である高校生に向けて、県では、学校からの要請に応じ、林業に関心ある生徒向けの体験研修やチェーンソー操作等の安全教育、また、学校有林の利活用を促進するための指導者派遣や資機材導入の支援などを行っています。
さらに、林業大学校では、学生が高校生にドローンやチェーンソーの操作技術を披露して大学校への進学意欲を喚起するとともに、木曽青峰高校、上松技術専門校と連携した交流事業や演習林の共同利用など各校の特徴を生かした教育に取り組んでいます。
林業関連学科のある高校については、昭和期の5校から、統合、学科の改編等を経て、現在4校で林業の学びが行われていると承知しておりまして、社会情勢や産業構造の変化などを総合的に勘案し、見直されてきたものと認識しております。
多様な経験を経て就業する方が多い林業におきましては、高校の再編が地域林業に与える影響を直ちに推しはかることは難しいと考えますが、若い世代が林業を職業の選択肢として意識できる環境があることは極めて重要だと認識しております。
以上でございます。
〔知事阿部守一君登壇〕
◎知事(阿部守一 君)私には3点御質問をいただきました。
まず、高校再編が地域の産業に与えた影響と今後の高校再編の課題という御質問であります。
人口減少に伴い生徒の数が減少していく中で、学校の再編統合等を行う中にあっても、時代の要請を踏まえた学科の改編等により、専門学科における学びの質を高めることにより地域産業の発展に貢献できるよう人材の育成に努めてきたところであります。
今後の改革に向けての問題意識は、私も百瀬議員と同じ思いであります。今いただいたような御指摘を受けているという状況をしっかり重く受け止めて対応していかなければいけないというふうに思っております。
今回の高校再編に当たりまして私の問題意識を少し申し上げたいと思いますけれども、まず、教育県として発展してきた長野県であります。今回の高校再編は、将来の長野県の教育のみならず、全ての分野における長野県の発展の礎をつくるものという認識を関係者が共有して学校に魂を込めていくということが重要だというふうに考えております。
また、時代が大きく変わっている中で、中長期的な視点をしっかり持ちながら将来を見通して、子供たちを中心に置きながらも、経済界や社会のニーズに合致した教育の場となるようにしていくということが重要だと思っています。
さらに、高校はまさに地域の拠点であります。地域の発展とも密接に関連しているわけでありますので、市町村をはじめ地元の皆様方の理解と協力が得られるような改革にしていくということが重要だと考えております。
そうした観点で、具体的な課題として私が認識しているものは、まずは子供たちの進路希望、あるいはこれからの将来の産業構造の在り方、こうしたものを見据えて、適切な入学定員、あるいは学科定員を設定していくということが必要だというふうに思いますし、改編、再編をしたらまたすぐ見直しといったようなことになってはいけませんので、一定程度持続可能性ということも意識した改革をしていくということが必要だと思っております。
また、二つ目には、経済団体や地域の皆様方と十分に意思疎通、意見交換を図りながら、産業構造の変化や地域社会の変化に適合した学習内容、学びの方法、カリキュラムづくり、こうした分野は教育委員会のテリトリーでありますけれども、しっかり行っていただくということが重要だというふうに思います。
また、今、地域戦略会議ということで、いろいろな地域で市町村長の皆様方と意見交換をさせていただいていますが、まさに教育こそが地域に人を引きつける重要な要素だというふうに考えています。そうしたことに鑑みれば、全国の高校改革や高校の在り方を先導するような特色ある学校、学科をつくっていくということが重要だというふうに考えています。
また、教育委員会を中心に新しい学校デザインを行ってきています。学校の形を変えていくということだけでなく、地域の皆様方とのつながりや実業界の皆様方とのつながりも変えていくということが必要だと思います。そういう意味で、地域の皆様方を積極的に講師としてお迎えする、あるいは、子供たちが地域や企業に入って、インターンシップなどを通じて実学を学ぶ、こうした地域や企業との連携ということも大きな課題だというふうに考えております。
続きまして、今後の高校再編の取組についての所見ということであります。
一般行政の積極的な関与が求められているのではないかということで、私も全く同じ考えであります。これまでも、教育委員会に対して、今申し上げたようなことも含めて、知事の立場として意見を申し上げてきているところであります。今回の県立高校の再編・整備計画を含めた高校改革は、まさに未来志向、そして、子供を中心として長野県の教育を組み立て直していくための千載一遇のチャンスだというふうに考えています。
もとより、今後、県議会の皆様方の御理解をいただきながら改革を進め、また、学校の新設等に当たっては多額の投資を必要とするわけでありますので、県民の皆様方の理解が得られるものにしていくということも大変重要だというふうに考えております。
御指摘がありましたように、こういう学校だったら入りたい、こうしたことを学びたいという思いをかなえられるような高校改革にしていくということが重要だと考えています。
私としては、全国からも人が集まるような学校であってほしい。また、未来を見据えて、デジタルや環境学習、そうした長野県らしい取組に強みを持つ学校を、産業界、地域の皆様方、保護者の皆様方、そして子供たちと一緒に考えていくことが求められているというふうに思っています。
こうした高校改革を進めていく上では、例えば、高校の施設整備は予算編成権を有している私の権限でもありますので、知事部局としてもしっかりコミットしていくことが必要だというふうに考えています。そのため、この4月に教育委員会に高校教育改革推進担当の参事を設置いたしましたが、知事部局と併任という形で配置しているところであります。高校再編、高校改革は、長野県の未来にとって極めて重要なテーマだという思いを県職員全体が共有して、教育委員会と一緒に高校改革を進めていきたいというふうに考えております。
もう一点御質問をいただきました。10広域の再整理の必要性についてという御質問であります。
広域の枠組みについては、必ずしも画一的な捉え方のみでなく、これまでも場面に応じて様々な対応の仕方があったというふうに考えています。
例えば、県といたしましては、総合的な現地機関としての地域振興局については10広域に設置しておりますが、専門性の発揮やマンパワーの集約というような観点から10の広域にこだわらない現地機関も設置しています。児童相談所や労政事務所等がそうした現地機関であります。
また、市町村レベルにおきましても、基本的には10の広域連合が設置されているわけでありますけれども、広域市町村圏のエリアにかかわらず、地域によっては柔軟な対応がされているという現状がございます。
今後とも、交通体系の変化や情報通信環境の進化など、時代の変化をしっかり踏まえながら、その状況に応じ、組織や、組織が所管する地域の在り方を考えていきたいというふうに思っております。
以上です。