MENU

2019年9月定例会本会議

ひとづくり

県内で実践される自然保育プロジェクト

○議長(清沢英男 君)次に、行政事務一般に関する質問及び知事提出議案を議題といたします。

 順次発言を許します。

 最初に、百瀬智之議員。

      〔13番百瀬智之君登壇〕

◆13番(百瀬智之 君)おはようございます。早速質問に入ります。

 今月10日のOECDの発表によると、2016年に加盟各国が小学校から大学に相当する教育機関に対して行った公的支出のGDPに占める割合は、日本は2.9%で、比較可能な35カ国のうち3年連続で最も低かったといいます。少子化に伴う労働力減少を前に、将来世代に惜しみなく投資をしていくことは国家的な課題であり、来月から始まる幼児教育、保育の無償化に際して、これからこの地域でどのような教育を施し、どのような人材をつくり、どのような社会を目指すのかという点について改めて認識を共有せねばなりません。そこで、今回は、自然保育というテーマを通じてこれからの幼児教育のあり方を問うてみたいと思います。

 まず、自然保育というと、山里近いごく限られた場所で、一部の子供たちが、まるで放牧されているかのように特殊な教育、保育を受けていて、伸び伸びとは過ごしているんだろうけれども、それでいて小学校からの団体生活にうまくなじめるのだろうか。実際に、どこどこではかくかくしかじかの事例があったらしいという類いの懐疑的な見方があるのも確かです。

 しかし、近年の環境にまつわるSDGsの理念や幼児教育におけるエビデンスの数々に基づけば、これらの見方は正確ではないということが明らかになってきました。むしろ、時折顕在化する若年者のひきこもりや自殺といった現代的課題を見ても、その時々に講じられる措置や対応策に加えて、自然保育に代表されるいわば予防策として負の影響を効果的に抑制しながら子供たちの自己肯定感や自尊心を育む教育システムをしっかり確立していく必要があります。

 そこで、自然保育の普及拡大を考えてみると、例えば、平成27年度から始まった信州やまほいく制度は、今月で認定園が210園を数えるに至り、関係者の御努力により全国に誇る制度となってきました。屋外を中心とするさまざまな体験活動を積極的に取り入れるというやまほいく制度の趣旨は、今後は認定園の数とともに質を追求する段階に入り、一つには、町なかにおいても豊かな自然環境を意識的に子供たちに提供していくことがポイントになってくると感じます。とすれば、望ましい自然保育を実現するには、園からほど近い場所に子供たちが自由に遊べるそれなりの自然環境が広がっていてほしいものですが、前回の一般質問で花と緑のまちづくりを扱った際も指摘したとおり、特に町なかの自然環境については課題の多い状況で、では肝心の園庭の環境はどうかというと、残念ながら、こちらもそれを自然環境というにはほど遠い状況が散見されます。というのは、ただでさえせわしなく動いている保育現場において、保護者の目が光る中で日本の園舎、園庭が求めたのは、ひとえに効率と安心、安全でしたから、耐久性や価格にすぐれたプラスチック製品などを使おう。砂場に加えてブランコやすべり台など一定のものがそろっていれば十分だという一見単純明快でもっともな施しが広がりました。しかし、最近では、それらが逆に子供たちの多様な感性や危機管理能力など目に見えない力をそぐことになりかねないという事実が解明されてきています。

 これらに鑑みると、人格形成の根幹をなす幼児教育の重要性を改めて見直し、山もあれば川もあり、そこには種々の生物が生息しているという長野県の多様な環境を縮小したような自然環境を子供たちの近くに用意し、子供たちが気兼ねなく体験を重ねられるよう努めるべきであります。

 そして、それは教育の実践方法についても同様で、近年の幼稚園教育要領、保育所保育指針、あるいは学習指導要領の流れを見てくると、例えば、主体的、対話的で深い学びが重要だということになるわけですが、では、具体的に主体的、対話的で深い学びとは何なのかという問いに、全国の関係者でも具体的なイメージを持ち得ている人は少ないと思います。

 幸い、長野県では、まさに自然保育がその実践事例に当たるのではと感じていますが、例えば、この1、2カ月の間に国内外の幼稚園や保育所を幾つか見て回った中に、こういう幼稚園がありました。

 園の先生たちはそれをプロジェクトと呼び、このプロジェクトを主体に園のカリキュラムは組まれていました。プロジェクトは6週間にわたり、6週間が過ぎたら2週間のインターバルを経てまた次の6週間にわたるプロジェクトが展開されていくのですが、では一体何のプロジェクトなのかというと、それは、先生と子供、保護者が、その都度あるテーマを設定して、クラス全員でそのテーマを探求するプロジェクトで、一例として、最近では中世のプロジェクトというものがあったそうです。中世の絵本や資料を見ながら、この地域では中世にどんな服が着られていたのか、どんな物が食べられていたのか、どんな音楽が流れていたのかなどに思いをはせ、中世の格好をしてみたり、当時食べられていたものを森の中まで探しに行ってみたり、それを時には調理してみたり、地域の伝統音楽に触れる機会をつくったりする。それは、地域を知り、愛着を持つことにもつながるということで、一つの具体的なテーマのもとに、園児たちの主体性や探求心が集中的に育まれ、2週間のインターバルを経て、また次のプロジェクトに向けて発展的に昇華されていくとのことでした。

 そのほかには、鳥のプロジェクトや光のプロジェクトなどがあり、いずれにしても、これらを見聞するにつけ、これからは、教え、導くという従来の発想を見直し、子供たちの主体性を引き出し、寄り添う教育が求められてくること、そして、その際には、自然保育の要素を極力取り込むことが効果を最大限に引き出すと確信する次第であります。

 そこで、以下、具体的に伺います。前述のとおり、今後は町なかの園でも植栽やビオトープ、自然素材を使った遊具を積極的に取り入れていくべきと感じますが、園舎、園庭の環境改善に対して自然保育の実践を可能にするガイドラインのようなものを県単独で設けてはいかがでしょうか。

 また、やまほいくの制度創設以来、認定を受けてきた数々の園には、認定を契機に一層教育環境の充実に努めてほしいところで、ひとたび認定を受けた園が自然保育の質の向上を目的とする県主催の各種研修会や交流会に参加する率はどの程度なのか、気になるところです。実際、先進的な取り組みをしている園では、自然保育に関して意識の高い先生方がその先導的な役割を果たされており、認定園がふえてきた今、県内数カ所に自然保育を現場で学べるモデル園を設置して、恒常的に実際の保育を体験できる環境をつくれば、研修や全国各地から視察に訪れるようにもなり、自然保育の先進地としての情報発信を高水準で提供できると思いますが、いかがかでしょうか。

 以上、一つには園舎、園庭の環境改善に関するガイドラインの策定、二つには認定園の県主催研修会、交流会への参加実績、三つにはモデル園の設置について、以上、県民文化部長の見解を求めます。

 そして、最後に、知事におかれましては、就任以来一貫して教育政策の推進に努められてきたと認識しています。その中で、長野県における主体的、対話的で深い学びとはどのようなものなのか、そこで自然保育はいかなる位置づけにあるのか所見を伺い、今回の一切の質問といたします。

      〔県民文化部長増田隆志君登壇〕

◎県民文化部長(増田隆志 君)自然保育について私には3点御質問をいただきました。

 1点目、園舎や園庭の環境改善を促進するためガイドラインを策定すべきという点でございます。

 町なかにおきましても、この自然保育やその趣旨を生かした保育ができることは望ましいことと考えております。そのため、県では、都市部において取り組まれております事例、例えば、用水を活用した沢ガニの観察、プランターやバケツを使った稲作といった事例、そういった取り組まれている保育園の事例を信州型自然保育ガイドやホームページ「信州やまほいくの郷」などを通じ、情報発信をしているところです。

 植栽や自然素材を使った遊具を保育に取り入れることについても一般によい効果があると考えております。園舎の木質化やウッドデッキなどの施設整備を支援する県の事業もございますので、周知して促進を図ってまいります。

 その上で、御質問のガイドラインの策定についてですが、基準を設けるに足るエビデンスや効果のあるガイドラインがどのようなものかなど、現時点では私どもは十分な知見を持ち合わせていないところでございます。県としてガイドラインを策定すべきかどうかについては、今後勉強させていただき、研究をしてまいりたいと考えております。

 次に、認定団体の各種研修会や交流会への参加実績についてですが、県では、信州やまほいくの認定とともに、その保育、幼児教育の質をさらに発展、向上させていくことが必要と考え、認定園の保育者同士が交流する研修交流会を平成27年から年3回、認定園の現場で実践的な保育を学ぶ専門研修を平成29年から年10回程度開催しております。

 参加実績でございますが、研修交流会には、平成27年度に43園、28年度82園、29年度91園、30年度78園の参加がございまして、専門研修には、29年度45園、30年度32園の参加がございました。4年間で延べ371園、複数回参加されている園もございますので実数で159園、平成30年度時点での認定園は185園でございましたので、86%の園がいずれかに参加されています。

 最後に、モデル園の設置についてでございます。昨年、特化型の認定園を中心に構成されます長野県野外保育連盟との懇談の中で、自然保育に係る研修や視察の充実を念頭に、体系的に学ぶことができるフィールドや仕組みを持つモデル園について御意見をいただきました。現時点では、モデル園について具体的な検討は行っておりませんが、研修や視察につきましては一層の充実が必要と考え、取り組みを始めたところです。具体的には、これまでの専門研修を今年4月から幼児教育支援センターのフィールド研修として位置づけ、やまほいくのモデル的、先進的な団体での受け入れ型の研修を実施しております。モデル園の設置につきましては、今後一層の研修の充実や発信の方法とあわせ、引き続き関係者から御意見を伺いながら検討してまいります。

 以上でございます。

      〔知事阿部守一君登壇〕

◎知事(阿部守一 君)長野県における主体的、対話的で深い学びとはどういうものと考えているのか、また、自然保育はどういう位置づけなのかという御質問をいただきました。

 非常に大きくて深い問題だというふうに思っております。まさにAI時代と言われている中で、人間はこれからどうあるべきかということに結びついてくる問題だというふうに思っております。どれだけ人工知能が進化しても、基本的には与えられた目的の中でそれをどう処理していくかということにとどまらざるを得ない部分があるわけでありまして、そういう社会の中で、私たち人間には、みずから目的を設定していくこと、必ずしも答えが明確でないものについても向き合って他者と協働しながら目的に応じた納得解を見出していくこと、こうしたことが求められているというふうに思っております。

 ICUの理事長、ハーバード・ビジネス・スクール教授竹内弘高先生が、ビジネスプロセスがゼロから10段階あったとしたときに、これからのAI時代はゼロと1、それから9と10、要は、最初の何をやるかというところと最後の他者とのインターフェースのところが人間が担うべき部分として残ってくることになるんじゃないかというようなことをおっしゃっていらっしゃいます。

 そういう中で、これから、子供たちにとっては、受け身で物事を受けとめたり対処するということではなく、主体的に向き合ってみずから目的設定や課題設定をしていくというような能力やそれぞれが持つ能力を主体的に発揮していってもらう、そういうことが重要になってきているというふうに考えております。

 従来の教育は、先生が子供たちに一方的に教えるという形が中心になっていたわけでありますけれども、これからは、子供たちに学びを外から与えるということではなくて、本来主体的、能動的な存在である子供たちの主体性というものを大切にして、子供たちが持つ多様な能力を引き出し、伸ばしていってあげるということが大変重要だというふうに思っております。

 長野県における主体的、対話的で深い学びをどう具体化するかということについては教育委員会において検討してもらってきているところでありますけれども、私としては、今申し上げたようなスタンスで、長野県の教育をぜひ新たな時代に適応した形に、そして、これまでのような画一的な学びではなく、子供たちの持つ能力を、それぞれの個性をしっかりと引き出していくことができるような教育に転換していってもらいたいと思っております。そういう観点で、この主体的、対話的で深い学びという新しい学習指導要領で打ち出された概念を長野県として具現化してもらいたいというふうに思っております。

 信州やまほいくでありますが、これは、子供たち自身が自分たちで自分たちの活動を考えていったり、自然の中でそれぞれの子供たちがみずから自分の興味や気づきを得ると、こういう特色を持っているわけでありまして、まさに主体的、対話的で深い学びの基礎でもあり、また、そうしたものを実践してきているというふうに考えております。

 今回の学習指導要領の改訂によりまして、小中高においてもこうした主体性の尊重が強く打ち出されてきたわけであります。私どもが目指していた方向性と国が目指していく方向性が近づいてきているというふうに感じております。

 今後は、信州やまほいくの充実をさらに図っていきたいというふうに考えておりますし、また、幼稚園、保育園のレベルから、次の小学校、中学校、高校の段階へしっかりとこの主体的な学びが引き継がれることができるように、やまほいくと小学校や中学校等との円滑な連携を図っていきたいというふうに考えております。

 以上です。