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2022年2月定例会本会議

ひとづくり

学校はいじめとどう向き合うか

○副議長(清水純子 君)次に、百瀬智之議員。

      〔13番百瀬智之君登壇〕

◆13番(百瀬智之 君)松本市・東筑摩郡選出の百瀬智之です。本日はいじめについてお伺いいたします。

 滋賀県でのいじめ自殺事案をきっかけに、2013年、いじめ防止対策推進法が成立しました。以来、発生しているいじめの数々をまずはしっかり認知していこうと試みられ、近年のいじめ認知件数は全国で50万件から60万件、県内では1万件前後が認知されるようになってきました。それまでは陰に隠されてきたような事案もあぶり出され、それらへの対応も大分システム化されてきたとはいえ、大量に積み重なるいじめ事案を前に、どうやったらいじめを減らすことができるのか、撲滅に向けた取組はどうなっているのか、頭を抱える方は非常に多くいらっしゃいます。

 そこで、今回は、この点を私なりに、以下の2点、1点目はいじめに対する未然防止プログラムの欠如、2点目は教員の多忙さと学校の不慣れに焦点を当てて質問をしてまいります。

 ある教育学者によれば、いじめは、いじめる子といじめられる子の先天的な特質や個性に原因があるわけではなく、閉ざされた部分社会で起こるある種の集団現象とそこで背負わされた役割だといいます。つまり、よく言われるように、いじめというのは、加害者、被害者のみならず、クラス全体の対人関係に関わる問題なのですが、子供たちには他人との関わりを体系的に学ぶ機会というのがほぼありません。

 例えば、確かにさきのいじめ防止対策推進法でも道徳心を培うことがうたわれ、2018年からの道徳の教科化にもいじめが理由として挙げられました。とても大切なことではありますが、それは、言わば大人の社会、一般社会でも通じるよう構成され、相手側にもある程度の常識が備わっていることが前提になっていますから、同年齢の同じ服を着た同じようなことを考えがちな者同士が毎日集まるという特殊な環境下で、理不尽な言動を継続的に強いられるいじめに特化して威力を発揮するものではありません。荒れ狂った強国を前に弱小国が立ち向かうべきすべはここでも準備されていないわけです。

 そこで、このところ注目を集めるアルファベットでK、i、V、aのKiVa、フィンランド語で楽しい、心地よいという意味合いのあるKiVaプログラムを引き合いにしますと、この学校プログラムでは、例えば、サングラスに長髪の少年が別の少年に嫌がらせをしている。級友の1人はいじめられている子に味方しようとしているが、ほかの子供たちは遠くのほうで、またいじめが始まったよと見ているだけ。さあ、君はどうする。そのまま立ち去るのか、それともいじめられている子に話しかけるか、それとも。こんな場面がネットで展開され、プログラムは、月に1回90分間、年10回行う授業と、合間に行うパソコンのゲームで構成されています。国立大学の研究者らがいじめのメカニズムを研究したところ、加害者と被害者の関係というよりは、加害者が周囲に自らの力を誇示するために繰り返しいじめをするケースが多いことから、このプログラムは、傍観者をなくすこと、すなわち教室全体の問題と捉えて、授業でもいじめが起きた際にどう行動したらよいかを学ぶロールプレイングをクラス全員がして、いじめられている子に声をかけることや味方になることの大切さを重ねて学習します。

 欧米のみならず、近年日本の自治体でも導入が進んでいるこのプログラムでは、ほかに校長や教師、スクールソーシャルワーカーなどの教職員3人以上で構成するKiVaチームが常設され、いじめへの対応に当たります。休み時間には、当番の教員が緑色のベストを着用するよう推奨され、どの先生に相談をすればいいか生徒に一目で分かるようにする仕組みがつくられています。これを日本の教育現場で実現していくとなると、必然的に教員の負担軽減が求められ、したがって、いじめを取り巻く二つ目の問題点として、教員の多忙さと学校側の不慣れが問題になってきます。

 ときにちょうど1年前、14歳の女子中学生が壮絶ないじめを受けた挙げ句に公園で凍死していたというとんでもない事件が旭川市でありました。このとんでもない事件は、その後の学校側のとんでもない対応ぶりと相まって、今なお時折報道されることとなっています。

 しかし、長野県でも、ここ数年は毎年1万件前後のいじめ認知件数があって、いわゆるいじめ重大事態も毎年認知されていますから、これをもって必ずしもとんでもない事件とは言い切れない状況にあり、また、いかに法律が変わって事件を担任だけが抱える状態が改善されたとはいっても、ふだんは穏やかで平和と思われる片田舎で突如としていじめ重大事態が明るみに出た場合に、では推進法のおかげで事なかれ主義を排撃できるようなパワーが学校側に培われたかといえば、クエスチョンマークは拭えません。生徒一人一人に向き合う時間が足りない教員の多忙さやこうした問題への学校の不慣れに鑑みると、旭川の事件をもってこれまたとんでもない対応ぶりだと断じきれないもどかしさを感じます。

 そこで、教員におかれては、いじめの予防と対応の各場面で適切な指導を実践できるよう引き続き共通認識の構築に努めていただき、学校におかれては、いじめは必ず発生するとの前提の下に、常にフェアでオープンな対応を取っていただき、また、政府自治体におかれては、教員が生徒児童と向き合える時間を確保し、どの学校もいじめ事案に毅然と対応できるルールづくりをしていただきたい、そのような要望をするものでありまして、それらに鑑み、以下具体的にお尋ねしてまいります。

 まず、未然防止については、先ほど申し上げたように、人権教育や道徳教育のほか、今ある各種団体や弁護士などによる出前講座では、一部の児童生徒たちに限定的な記憶を残すことしかできず、いざというときの積極的な対応を引き出せません。県としては、いじめの未然防止にどのように取り組んでいて何に課題を感じているのか、そして、KiVaプログラムそのままとは言わないまでも、より実証的研究と専門的知識に基づいたいじめ防止に特化した具体的なプログラムを導入していくべきではないか、教育長にお尋ねします。

 先般の文部科学省の調査によると、公立小中学校などで教員が不足していることが明らかとなり、今年度当初に配置された公立校の教員数は、各教育委員会の予定に比べ2,558人不足していたとのことです。教員の多忙が問題になるときに、マンパワーの不足は大きな課題となりかねませんが、本県で教員不足は生じているのでしょうか。

 また、新年度予算においては、教員をサポートするスタッフの事業費、スクールカウンセラー事業費、スクールソーシャルワーカー活用事業費がいずれも増額され、周辺業務などはぜひこうした方々に委ねていっていただきたいと思う一方で、文部科学省が後押しするスクールロイヤーの活用はどのようになっているでしょうか。

 2020年度から都道府県教育委員会の弁護士などへの法務相談経費について普通交付税措置が講じられ、自治体での導入はここ一、二年で急速に進み、いじめ事案についても一定の効果を上げていると聞いております。スクールロイヤーの導入状況についてお尋ねいたします。

 さらに、一たび認知されたいじめに関しては、その8割は解消済みとして報告されています。では、解消に向けて取組中とされている残りの約1割から2割はどのように追跡調査がされ、県へ報告されているのでしょうか。これは、いじめ重大事態についても解消状況がどのようになっているかをお示しいただきます。

 そして、いじめ重大事態が公立の小中学校で発生した場合県としてはどのような関わり方をすることになるのか、改めて御説明いただいた上で、数多くの郡部を抱える長野県ですから、小規模校でも、万が一の重大事態に備えて、他校のそれはなぜ起こり、どのような経過を経て、学校側としてどのような対応を取ることが適切だったのかということについてできる限り共有し、検証できる仕組みづくりが重要と考えます。そこで、重大事態の発生に備えていかなる計らいをしているのか、以上全てにつき教育長の見解を求めます。

 最後に、知事に伺います。

 近年1万件前後が認知されているいじめ件数は、あくまで認知件数であって、発生件数ではありません。よって、現実にはもっと多くのいじめが県内で日々発生していることになります。一般社会では暴行罪、傷害罪、窃盗罪に該当し得るものから、冷やかしやからかいの部類まで、前者についてはもちろん論外でありますが、冷やかしやからかいであっても、それらがエスカレートしていく可能性はありますし、たとえ解消済み事案として報告されていても、それらが長期にわたって被害者の心にしこりを残すことは間違いありません。

 2020年9月に発表されたユニセフ・イノチェンティ研究所のレポートによると、日本の子供の精神的幸福度は先進国38か国中ワースト2位だったとのことで、識者たちがこの第一要因にいじめを挙げています。子供のウェルビーイングという言葉も飛び交うようになった今、長野県では誰一人取り残さない公正な社会づくりという理念を学校現場と幼児教育の現場にも重点的に落とし込んでいただきたいと思いますし、特に幼児教育については、本日申し上げた人間関係、対人関係の構築や自己肯定感の醸成に決定的に重要な時期であります。改めて、これからの長野県教育は、幼児教育に殊さら特色をつけていくことが必要ではないか。新年度以降に重点を置く幼児教育政策と幼児教育への思いを知事にお伺いして、今回の一切の質問といたします。ありがとうございました。

      〔教育長原山隆一君登壇〕

◎教育長(原山隆一 君)いじめの防止についてのお尋ねでございます。

 まず、いじめの未然防止の取組とその課題についてでございますが、県教育委員会では、平成26年に策定したいじめ防止のための基本的な方針に基づきまして未然防止の取組を実施しているところでございます。具体的には、教員を対象に、いじめの定義や適切な対処方法、子供の人権等についての研修を実施するほか、いじめで苦しんだりいじめでお子さんを亡くした方や弁護士を講師として学校に派遣する、また、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、いじめ・不登校相談員の配置やLINE相談などの相談支援体制の充実などに取り組んでいるところでございます。

 現在の課題としましては、インターネットの普及によりまして、ネット上の誹謗中傷やオンラインゲームのトラブルが学校に持ち込まれるなど、表面化しにくい新たないじめが発生していることでありますとか、コロナ禍によりまして子供たちが対面でやり取りする機会が減少し、子供同士の関係が築きにくく、トラブルが生じやすい状況になっていることなどが課題であるというふうに認識しているところでございます。

 いじめ未然防止のためのプログラムの導入についてでございます。

 議員御紹介のKiVaプログラム等につきまして、例えば世田谷区では、KiVaをはじめとしたいじめ防止に関する先進的な取組を参考としまして、独自に開発したプログラムを取り入れた授業を行っているというふうに承知しております。こうした取組事例について情報収集し、本県のいじめの未然防止の取組に活用できるか研究してまいりたいというふうに考えております。

 次に、本県の教員不足の状況についてというお尋ねでございます。

 文科省が実施しています教師不足に関する実態調査では、本県の昨年の5月1日時点の教師不足数は、小学校で2人、中学校で1人、特別支援学校で4人となっております。内訳は、小学校の2人が本務者の療養休暇の代替、中学校の1人が少人数学習集団編成を行うための教員、そして特別支援学校の4人が本務者の育児休業等の代替の教員であります。なお、高等学校では教員不足は生じていない状況でございます。

 次に、スクールロイヤーの導入状況についてでございます。

 県教育委員会では、県が選任している契約弁護士に法律相談を実施できるようになっているところでございます。また、市町村教育委員会では、学校からの相談に応じる専任のスクールロイヤー制度を長野市、松本市の2市が導入している状況で、それ以外の市町村では、必要に応じて市町村が選任する契約弁護士に相談できる体制となっているところでございます。

 続きまして、いじめの追跡調査と県への報告についてのお尋ねでございます。

 令和2年度文部科学省における本県のいじめ認知件数は8,638件でございます。そのうち、解消済みが86.5%、取組中は13.4%となっております。いじめが解消している状態とは、いじめに係る行為が少なくとも3か月を目安にやんでいること、それから、被害児童生徒が心身の苦痛を感じていないこと、この二つの要件が満たされることが必要でございます。

 お尋ねの取組中となっている案件につきましては、学校においてアンケートや面接等によりいじめの解消まで丁寧に状況を把握し、見守りを行っているところであります。その後、県立学校はいじめの解消状況について県教育委員会に報告するようになっておりますけれども、市町村立学校については県への報告は求めていない状況であります。

 それから、いじめの重大事態の解消状況についてでございます。

 本県において過去3年間に発生したいじめの重大事態は、平成30年度6件、令和元年度7件、令和2年度5件という状況でございます。学校がいじめ重大事態を認知した場合は、学校の設置者を通じて地方公共団体の長等に速やかに報告し、対処することとなっているところでございます。令和2年度に報告のあった5件のいじめの重大事態全てにつきましていじめの行為は解消しているものというふうに承知しております。

 それから、公立小中学校のいじめ重大事態に対する県の関わり方についてでありますけれども、県教育委員会では、学校、市町村教育委員会から要請があった場合には、指導主事の派遣や助言等を行いまして市町村を支援しているところでございます。例えば、いじめの当事者への事実確認の方法や保護者への対応、調査組織の設置や調査委員の人選などの相談に対し助言をしている状況でございます。

 それから、市町村教育委員会や学校がいじめ重大事態の発生時に適切な対応を行うための県の支援についてでございますけれども、いじめ重大事態の発生時には、県教育委員会は、市町村からの要請に基づきまして、学校、市町村教育委員会への支援を実施すること、それから、調査組織、外部専門家の人選の支援を行うこととなっておりまして、これについては、いじめ防止等のための基本的な方針に示しまして市町村教育委員会と共有しているところでございます。さらに、県教育委員会が設置する医師や弁護士、心理士、福祉関係者などから構成される学校支援チームによりまして支援や助言を行う仕組みの活用について学校とも共有しているところであります。

 また、今年度、県のいじめ問題対策連絡協議会におきまして、これまでに県内で発生したいじめ重大事態の調査報告書の提言等を基に、市町村教育委員会でも活用可能な長野県いじめ対応マニュアルを作成いたしまして、来年度、このマニュアルを学校に周知するとともに、教職員を対象とした研修を実施する予定でございます。引き続き市町村や学校、教職員等がいじめ重大事態が発生した際に適切な対応を取ることができるよう支援してまいりたいというふうに考えております。

      〔知事阿部守一君登壇〕

◎知事(阿部守一 君)私には幼児教育について御質問をいただきました。

 幼児教育について、まず、幼児期は、私たち人間にとって生涯にわたる人格形成、また生きていく力の基礎を培う大切な時期だというふうに考えています。本県も、この幼児教育では幾つか特色ある取組を進めてきたわけでありますけれども、一つは信州やまほいくと称して豊かな自然の中で子供たちの興味や関心に基づく主体的な遊び等を通じて生きる力を伸ばしていこうというものであります。また、園種を超えた研修等を行って質の高い保育者の育成等に取り組む信州幼児教育支援センター、こうした政策を今後とも一層充実させていきたいというふうに思っています。

 来年度以降の取組でありますけれども、まず、信州やまほいくについては、さらなる普及拡大を目指していきたいと思いますし、その一方で、安全対策に関する研修等によりまして質の向上も図っていきたいというふうに考えています。また、幼児教育支援センターについては、保育者のキャリアに応じた研修の充実や幼保小接続カリキュラムの実践事例の普及等によって取組を一層強化していきたいというふうに考えています。

 幼児教育は、これからの時代にとって必要とされる、例えば自ら課題を発見して主体的に解決する力、また、常識にとらわれず新しい発想で適応する力、さらには、協調性や自己肯定感、こうしたことを身につけていく上で大変重要だというふうに思っています。教育委員会と知事部局で相互に連携を図りながらさらなる幼児教育の充実に向けて取り組んでいきたいと考えております。

 以上です。