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2018年6月定例会本会議

ひとづくり

イタリア食科学大学にみる地域像

○議長(鈴木清 君)次に、百瀬智之議員。

      〔5番百瀬智之君登壇〕

◆5番(百瀬智之 君)今回は、大学生活をテーマに、計4点お伺いいたします。

 昨年信州大学が行った信州大学松本キャンパス大学生活アンケート2017の結果によると、環境や文化芸術、観光、医療などおおむね全ての分野で、調査対象となった計506名の信州大学生が、満足、やや満足と回答したものの、交通については、やや不満、不満を示す学生の割合が約8割を占め、同様の結果はその他の調査でも明らかとなっています。

 具体的に何に対して不満を持っているかは、道路の舗装状態が悪い、混雑している、街灯が少ないなど多数ある中、特にバスの到着時刻については、時々ずれる、かなりの頻度でずれていると回答した者が多数を占め、実に85%以上の回答者が不満に思っている結果となりました。

 この課題に対して、今、地方のバス会社は、グーグルマップ上でバス停位置や時刻表を検索できるようシステム整備に努めており、青森市営バスなどはこの4月1日からグーグルマップでの経路検索に対応することとなりました。

 例えば、グーグルマップで青森駅から青森県庁までの間、約850メートルを経路検索すると、今その時間だと青森駅からはこのようなバスが出ていて、県庁前でおりると、徒歩12分かかるところが6分で済みますよというような情報が一目でわかるようになっています。

 対して、長野県はどういう状況かというと、長野駅から長野県庁までの1.2キロメートルを経路検索すると、県道32号線経由で徒歩15分かかりますと出て、バス情報は一切出てこないわけです。

 グーグルマップでのバス情報は、都市部を中心とする一部のバス事業者は対応しているものの、地方のバスの多くはまだまだ対応していません。しかし、行動分析サービスを提供するニールセンデジタルが昨年行った調査では、2017年に日本でグーグルマップのアプリを利用した人は月平均で約3,300万人と見積もられ、バス利用者増を狙って青森市初め各地で動きが出始め、今後は地方でも対応が進むことが予想されます。

 大学生はもとより、市民や観光客含めてバスユーザーに適時適切な情報を提供することは公共交通充実の観点からも重要と考えますが、本県の路線バスのグーグルマップ対応についていかに考えるか、企画振興部長に伺います。

 あわせて、県では、今年度の新規事業として、信州ナビを活用したバスの見える化等促進事業が始まっています。システム構築等費用約4,700万円、今年度予算約1,600万円がさきの議会で可決されました。

 この事業の最大の問題点は、県公式アプリ信州ナビの知名度が極端に低いことで、アプリのレビュー件数などは片手で数えるほどしか出てこないのは大変気がかりです。各地でグーグルマップ対応の動きが強まる中、当事業の実効性は慎重に見きわめるべきではないでしょうか。 事業の進捗と今後の見通しについて企画振興部長に伺います。

 さて、本題に入ってまいりますが、交通を初めとする日々の生活環境や授業料、奨学金の問題など、大学生にまつわる課題は幾つかありますが、自分の興味、関心に沿った授業内容が目の前で展開され、あるいは知的好奇心を鼓舞し、学生の将来の可能性を大いに広げるカリキュラムが組まれているかどうかは、学業を本分とする学生にとって本来最大の関心事です。

 ことしの4月、立命館大学に食マネジメント学部が新設されました。「食」は食べる食のことですが、何でもこの学部、日本では初の食に関する総合研究の学部だそうで、食に関する事柄を人文科学、社会科学、自然科学の三つに分け、これを総合的に研究する学問が食科学であるとしています。もっと平たく言うと、食の分野の教育は、調理方法や栄養学などのホスピタリティーを中心に学ぶ学校が多いところ、ここでは、ベースはあくまで学問として、そして食は毎日の生活や健康のみならず、政治、経済、環境、エネルギー、また資本主義のからくりや格差貧困といった問題とつながっていることから、食の世界全てを複眼的な視野を持って幅広く思考できるよう、体系的にカリキュラムが組まれているということだと思います。

 先日、イタリア食科学大学に留学している女子大生のお話を偶然聞く機会がありました。このイタリア食科学大学は立命館の学部と連携協定を締結しており、というか、こちらのほうが本家本元なのですが、約15年前にスローフード協会の創設者と二つの州の協力で生まれた食科学を専門とする世界で初めての大学です。

 スローフードとはファストフードに対して唱えられた考え方で、その土地の伝統的な食文化や食材を見直す運動を指します。何でも、1980年代半ば、ローマの名所の一つであるスペイン広場にマクドナルドが開店したことで、ファストフードにイタリアの食文化が食いつぶされるという危機感が生じ、その運動の空気感が醸成されたといいます。

 それらの思いをもとにつくられたこの大学は、学生に対しては食にまつわる全ての知識を提供し、また、積極的な国内外の体験プログラムを用意すると同時に、スローフードの理念の伝達や地元農産物の販路開拓、食を通じた地域振興、健康食品や伝統食の継承、生物多様性の維持などを伝授することにも余念がないようで、私の主観ではありますが、それらは、食を媒体にした大きな地元愛とファストフードに対抗するスローフードの世界観に支えられているように思いました。それらに裏打ちされた食にまつわるものを何でも学べますというシンプルなメッセージが、実に日本初め世界中から人を集めているわけです。

 私の話した留学生は、10代のころは日本の高校になじめなかったとのことでした。加えて、決して裕福ではない家庭環境であったりとさまざまな苦労をされたようですが、今は忙しいけれども充実した日々を送っているとのことで、大学生活で何が楽しいかという問いかけに、授業に学びがいがあって楽しいですというストレートな回答が返ってきたときは、すがすがしい思いがいたしました。

 そういえば、かつて学部生時代は、リベラルアーツを中心とした基盤教育を徹底的に行ったほうがよい。本来は就職活動も専門性を身につけるのもその後で行うべきだと、かの中嶋嶺雄氏はおっしゃっていました。当時は、リベラルアーツと聞いても、そしていまだに、リベラルアーツとは文法学、論理学云々と聞いてもピンとこない節はありますが、しかし、教養教育を自分の興味に沿って食という一つのテーマを通じて学べるのであれば、それは今後の不確かな時代を生き抜く力になるのだろうと思います。

 また、別の角度から考察すると、日本では、今、農業の大規模化、集約化が目指されていて、そのこと自体は賛成ですが、一方で、それらに若者の農業離れなどの要因が重なり、地域の伝統的な農産物であったり、農法であったり、施設であったりというものが徐々に消えてしまい、食のバラエティーは御承知のとおり大分欧米化してまいりました。

 これらへの危機感を学問として総合的に研究、発信、伝達する機関に形を変え、国内の食をボトムアップする知の拠点として、イタリア食科学大学のような存在は、日本においては、立命館以上に、健康長寿県として、また農林業が盛んな地域として、長野県にこそふさわしいのではないか、そんな気がした次第です。

 以上を踏まえて伺います。

 本年4月、長野県立大学が開学いたしました。立命館やイタリア食科学大学とは理念も経緯も規模も違い、一概に比較することはできませんが、率直に申し上げて、少なくとも受験生に対する訴求力は相当に弱いと思います。この大学が開校するまでに、知事初めさまざまな関係者の多大なる御苦労があったことは論をまたないところですが、そのことを若者が知るよしもなく、潜在的にかもしれませんが、彼らは知的好奇心をくすぐる大学の存在を求め続けています。

 今週月曜日に中央教育審議会の将来構想部会が大筋で決めた中間まとめでも、各大学に対しては、養成する人材像を改めて明確にするよう求めており、そこでは、高度な教養と高い専門性を備えた人材などが想定されていますから、そういった観点からも、たとえ一つでもこの分野では全国のどこの大学にも負けないというものが必要だと思います。この大学の魅力は何か、改めて知事から一言いただきます。

 その上で、今回はたまたま食を題材にしましたが、観光学部や芸術学部の類いも、本来は都会よりも長野県内にあるべきものではないでしょうか。県が都会と一線を画して、例えばワインバレーを構想し、あるいは観光立県を目指し、あるいは文化振興を掲げ、それぞれに全国に誇る先駆者の存在や地域住民の知恵、行政のノウハウがあり、また、それらに対応する高校も存在するものの、その後につながる学問の場と総合的な知の拠点がないという現状。人口減少の時代に大学や新学部は要らないとする意見もあるようですが、私はそうは思いません。それは県内の大学収容力がなお低位にあるということのみならず、これからの入学対象者は、18歳人口に限らず、社会人や留学生含めより広く捉えられるべきでありますし、自由競争社会の中で他地域や世界に負けない地域づくりをするという意味でも、また長期的な地域ビジョンを実践する意味でも必要なことだからです。

 一見ニッチと思われるこれらの学部こそ新しい価値を提供し、社会で必要とされ、長野県の未来に光をもたらすものだと感じますが、新学部の設置についてはいかがお考えか。最後に知事の所見を伺い、今回の一切の質問といたします。

 ありがとうございました。

      〔企画振興部長小岩正貴君登壇〕

◎企画振興部長(小岩正貴 君)私には2点御質問をいただきました。

 まず、路線バス情報のグーグルマップ対応についてでございます。

 県では、昨年度、信州ナビを整備し、鉄道から市町村のコミュニティーバスに至るまで一元的に検索できるサービスを開始いたしました。この信州ナビを通じまして、県内の交通事業者の運行データを初めて集約することができたところでございます。

 今後は、この集約したデータを活用する形で、御質問にございましたグーグルマップを初めより多くの方が利用される経路検索サービスにも対応できるよう検討しているところでありまして、関係者との協議、調整を進めてまいります。

 次に、信州ナビを活用した新たな事業の進捗と今後の見通しでございます。

 路線バスの到着時間に関する不満の声は、大学生のみならず、地域、年齢層問わず幅広く存在をしております。本県のモビリティーマネジメントや公共交通の利用促進の観点から、バスの位置情報提供は大変重要な対策の一つであると考えております。

 そうしたことから、今回、いわゆるバスロケシステムの整備を計画しているところでありますが、整備に当たりましては、既にバス事業者の運行データを有しております信州ナビに機能を付加していくことが現状では現実的かつ効果的と考えております。

 また、今年度行います信州ナビの機能強化では、信州ナビ利用者の年代や性別のほか、GPSを利用した移動データの取得、分析の機能も追加することを計画しております。

 こうして得られる情報は、いわゆるビッグデータといたしまして、ニーズ把握や行動予測などによる交通事業者の経営改善、観光やICT人材の育成など、交通以外の分野での施策立案、地域課題の解決を図る新たなビジネスやサービスへの展開など、今後活用できるものと考えております。

 ただし、事業推進に当たりましては、以下の2点に留意をする必要があると考えております。

 1点目は、御指摘のとおり信州ナビの知名度でございます。信州ナビのダウンロード数は、現時点で約3万件に迫っておりまして、この種のアプリとしては決して少ない数ではないと思っておりますが、それでもさらなる向上は必要であると考えております。そのため、ポスター、リーフレットなどに加えまして、バスの時刻表への掲載など、交通事業者や市町村の協力も得ながらさまざまな手段を活用してPRに努めてまいりますし、また、今回の機能強化自体がさらなる利用者の獲得にもつながると考えております。

 2点目は、信州ナビ以外のアプリでも利用できるような汎用性と拡張性の確保でありまして、そうした点も配慮してシステムの構築に取り組んでまいります。

 以上でございます。

      〔知事阿部守一君登壇〕

◎知事(阿部守一 君)県立大学に関連して2点御質問いただきました。

 まず、県立大学の魅力という御質問でございます。

 リーダー輩出、地域イノベーション、グローバル配信と、この三つの理念を掲げてスタートした県立大学であります。安藤理事長、金田一学長を初め教員の皆様方にいろいろな取り組みを行ってきていただきますけれども、私としては、非常にきめ細かな、大学、高等教育レベルとしては丁寧な少人数教育に一番特色があるというふうに思っております。

 1年次の全寮制、あるいは2年次の海外プログラム、あるいは英語集中プログラムということもありますが、今、金田一学長みずからが寮に出向いて学生一人一人と面談をしてきておりますし、また、発信力ゼミということで、1年次から通年で少人数のゼミを行い、コミュニケーション、あるいはプレゼン能力を養うとともに、徹底的な議論を行うなど、ほかの大学にはない取り組みを行ってきております。

 百瀬議員の御指摘は、私も真摯に受けとめなければいけない部分もあるというふうに思っておりますが、このグローバルマネジメント、あるいは健康発達学部のこども、あるいは食健康、こうした分野ごとにも、やはり訴求力のある特色を出していくということもしっかり考えていかなければいけないというふうに思っております。

 例えば、食健康も、単に管理栄養士を養成するということではなくて、むしろビジネス、グローバルマネジメント学部も有しておりますので、ビジネスを行えるような管理栄養士をつくっていくということもこの当初の構想の中には入れておりますので、まだ1年次の生徒が入った段階ではありますが、そうした考え方をしっかり大学の中に浸透させていくということが重要だというふうに思っております。

 今、幸いなことに、学生の活動等を報道等で取り上げていただき、比較的好意的に受けとめていただけているというふうに思っておりますが、ただ、私としても、百瀬議員御指摘のとおり、それに甘んじていてはいけないというふうに思っています。さらに、安藤理事長、金田一学長ともしっかり話し合いをする中で、大学としての特色、とがった特色をしっかり打ち出せるように努力をしていきたいというふうに思います。

 それから、県立大学の新学部の設置という御質問でございます。

 この点につきましては、県立大学設立準備委員会の議論等を経て基本構想を策定して、そして多くの皆様方の理解と協力を得ながらこの4月に開学にこぎつけたという段階であります。まだ1年次の生徒が入った段階でございますので、所期の目的をしっかり達することができるように全力を挙げていきたいというふうに思っております。

 ただ、私も、百瀬議員と同様に、長野県内の高等教育はもっともっと充実をさせていくということが重要だというふうに思っております。これは、県立大学だけではなくて、やはり信州大学、あるいは県内の私立大学を初め数多くの高等教育機関を全体として視野に入れて強化をしていくということが重要だというふうに思っております。

 例えば、観光分野では、松本大学の観光ホスピタリティ学科から毎年多くの人材が輩出されておりますし、また、長野大学では、今年度、県の観光地域づくりに関する寄附講座の開設もしていただいております。

 このように、それぞれの大学の特色を伸ばしながら、そして県全体としてどういう分野を強化していくかということをしっかり考えていくということが重要だというふうに思っております。県立大学については、さらに建学の精神が徹底するように取り組むと同時に、県内の各大学の動向も踏まえながら県内の高等教育全体の振興を図っていきたいというふうに考えております。

 以上です。