県内視察を終えての所感
今夏は委員会活動で県内各地の農林業関係施設を見聞させて頂いた。有機農業の現場を見たり、林業会社にお邪魔したり、合庁で陳情をお受けしたり。農政林務委員会ならではの活動を終え、ふと抱いた所感を留めたい。
上田市では、「稲倉の棚田」を見させて頂いた。この棚田のキャッチフレーズはズバリ「眺めるだけじゃない、カカワルタナダ」。平成11年の「日本の棚田百選」認定を契機に地元有志が集って保全活動を始めたという。以来、貴重な農業資産を守る活動を先駆けながら、農閑期に田んぼ内でキャンプを楽しめる棚田CAMP、岡崎酒造との協力体制による酒米オーナー制度など、様々な団体と連携して顧客満足度を上げて来られた。
棚田との関わりも自分の好みで選択できるようで、詳細は割愛するが「棚田ファン」、「棚田サポーター」、「棚田エリアオーナー」と、それぞれの楽しみ方が用意されているようだ。県民はもちろん、首都圏からも年々人を集めるようになってきたというから、その取組みには頭が下がる思いだ。
地方の農業や農地が持つ付加価値は、もっと丁寧に掘り下げたい。ここ数年来、いやそれよりも前から国では攻めの農業、稼げる農業、農業競争力強化、と、様々な言葉を使いながら農業の産業としての成長化を目指してきた。それは必要なことであるし、県政の視点からも次代の人材育成、果樹の輸出力強化などは喫緊の課題となっている。
その一方で、農業・農地が持つ付加価値を伸ばしていこうという姿勢は、まだまだ弱いと思う。少なくとも政策展開は弱い。この棚田についても、会長さん曰く「収益だけで見たらとてもじゃないがやっていけない(ほど厳しい)」。それでもこうして積み重ねられた「公益活動」は地域を守り、歴史を繋ぎ、人々を惹きつけ続けている。その役割をもっと多くの方に知って頂き、次の芽を生む契機としたい。
日本の環境保全型直接支払いがどうなのか?というような論点もあるように、こういう取組みには農業以外にも環境、観光、教育、地域振興といった重複的効用がある。単なる「農業支援」では語れない文脈を、県政にはもっと緻密に追ってもらう必要がある。
辰野町で視察した西天竜幹線水路の「円筒分水工」も同様か。今は田んぼに水が引かれる光景を誰もが当たり前のように見るけれども、最初に水を引いてきた人々の努力はなかなか推しはかれない。ここでも1930年頃から「円筒分水工」という独特の方法を用いて水路を整備し、時代が下っても残り続けて平成18年度に土木学会選奨の「土木遺産」に登録されたそうだ。
農業施設も、維持管理に首が回らないご時世だ。これも農業資産として「どうやって保存していくか」「補助金は十分か」という視点だけでは今後はやっていけないのかもしれない。天竜川流域の環境保全、観光施策、地域振興と有機的に結びつけていく必要がある。仮に円筒分水工がそれらのオマケであったとしても、味わいをもって代え難い脇役になるのでは。農業にもドローンが導入され、AIが物を言う時代になってきたからこそ、昔から大切にしてきたものをどう活かすかが問われている。